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 悲しいニュースとは一番縁遠い人こそが若山さんだった。

店に貼られた遺族のメッセージ ©文藝春秋

営業の傍ら慶応経済学部、日大大学院に通い、修士論文も

 所属する2つの商店街の理事を兼務するなど、地元では知らぬ者のないバイタリティーあふれる商人。妻の父親から継ぎ、3代目として切り盛りするとんかつ店では、営業の傍ら慶応大学経済学部、日本大学大学院に10年以上通い、修士論文も書き上げ、見事修了した。

 米流通最大手「ウォルマート」の研究成果をひっさげ、売り上げ至上主義からの脱却、消費者至上主義の徹底などの経営改革を図って老舗をさらなる成長軌道に乗せた。

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 打ち水大会、阿波踊り大会、食育の推進。地元活性化のため提案した施策も数知れず。いつしか地元のミニコミだけでなく、テレビ、新聞にも取り上げられ、地域活性化に悩む他の自治体で講演をするまでになっていた。

 地域に貢献を果たしてきた店主の明るいニュースの集大成が、昨年12月、2020年東京五輪の聖火ランナーに選定されたことだろう。決まった当初、若山さんは家族や商店街の知人らに喜びを隠さなかったという。

 店のホームページには、少しはにかんだような表情で聖火のトーチを掲げる写真が掲載されている。娘達による手作りの表彰状などを励みに長年、マラソンに親しんできたことも選考に加味されたに違いない。

※写真はイメージ ©iStock.com

手記に綴られていた家族への愛情

 積極的な活動を続けてきた若山さんだが、元来は口下手な部類だったようだ。そんな自分を克服しようと始めた若山さんの手記がある。電子書籍としても出版された手記では、商店街のことばかりではなく、普段はあまり言及することのない家族への思いもつまっている。

 とんかつ店での日常、研究生活の悩み、商店街での活動などに加えて手記で目を引くのは家族への愛情だ。日々成長する3人の娘への温かいまなざしが随所に感じられる。フルマラソンに初挑戦したときもそうだ。