高瀬 “褒めて育てる”みたいなことがよく言われるのですが、何でもかんでも褒めれば伸びるっていうのは違うと思いまして。親って、偏差値や順位の数字が上がったことを褒めがちだと思うんですが、塾の先生に話を聞くと、それは危険だと言うんですね。「数字が上がらないと褒められない」という思考回路になってしまい、カンニングまではいかなくてもズルしちゃったりとか、点さえ取れればいいという発想になってしまう子もなかにはいると。
じゃあ何を褒めるのかというと、「前ここができなかったのに、もうできるようになったね」みたいに、「あなたのことをずっと見ているよ」というメッセージを伝えることが大事なんですよね。このシーンもまさに、「ちゃんと見てるよ」というのを描写したくて描きました。
おおた そうでしたか。
高瀬 それが実際にいつでもできるかというと、自分でも自信はないのですが、「第32講」の<あなたのその成長がうれしい>という感覚をいつも頭の片隅に置いておかないと間違えちゃうと思います。
「どこにも受からなかったとしても、順は順です…!」
おおた 3つめはなんといっても、「第75講」に使わせてもらった「順は順です…!」ですね。多くの読者の印象に残っている名場面だと思いますが。これはひとつのクライマックスですよね。
高瀬 そうですね。ここはすごく描きたかったところなので。
おおた 島津順くんのお母さんのこの表情を描いているときというのは、高瀬さんもボロボロ泣きながら描いているんですか?
高瀬 うーん、ボロボロ泣くまではいかないかもしれないですけれど、かなり没入して、きっと同じような顔をしながら描いているとは思います(笑)。
おおた そうだと思いました。このシーンを見れば見るほど、これを描いている高瀬さんの表情が私の脳裡に浮かんできました。それくらいに訴えるものがあるシーンです。中学受験のどこかの瞬間で親はここに到達しなきゃいけないと思うんです。
高瀬 そうですね。
“不幸にも”第一志望に受かり続けてしまった親子
おおた 私、ときどき「受験強者のジレンマ」としてコラムに書くんですけれど、受験の各段階で“不幸にも”第一志望に受かり続けてしまった親子って、これに気づけないまま成長してしまうことがあるんです。中学受験でも大学受験でも最高の結果を出してしまうと、その子は「自分が○○中学の生徒だから」あるいは「東大に受かったから」親から誇ってもらえているのか、ありのままの自分を認めてもらえているのか、わからないままになってしまっていることがあるんですね。
高瀬 あぁ!