また、子どもがあやまった振る舞いをしても叱らない親が増えていると感じています。スーパーで、子どもがお菓子を買ってほしくて大声をあげ、泣き出してしまった。そんな時、あなたならどうしますか。「今日は買わないよ」と毅然とした態度で言い聞かせることができるでしょうか。それでも、子どもは騒ぎ続ける。周囲のお客さんの視線が突き刺さる。親であるあなたまで、イライラして大きめの声で注意したら、ますます注目を浴びてしまいます。結局、「今日だけだからね」と言いながら欲しい物を買い与えてその場をおさめてしまった。こんな経験はないでしょうか。
子どもはこの時、どんな風に感じているでしょうか。自分が大声を出したら、お父さんお母さんがのぞみを叶えてくれた。そうか、お父さんやお母さんにお願いする時には、大声をあげればいいのだ、と学習してしまうのです。大声をあげる行動はますます強化され、子どものモンスター化は加速していきます。
間違った行動を強化しないためには、その場を離れて無視するふりをして見守ってほしいと思います。そうすると子どもは注意を引こうとさらに大声を出すでしょう。中には、自分を傷つけるぞと言わんばかりにアピールしてくる子もいます。でも、パニックになって危険な行動に走らない限り離れていればいいのです。この戦いは10分程度で終わるものではありません。周囲に迷惑がかかるから、恥ずかしいから、仕事があるからといって妥協しないでください。最低でも数時間は付き合う覚悟が必要です。これが後に効いてきます。
叱られ慣れていない子どもを叱るのは大変ですが、私は、上手に叱り挑発することは子どもの意欲を引き出し、社会の道理や人との関係を学ぶ上でも大切であると考えています。
もちろん、すべての子どもに挑発が良いわけではありません。落ち込んだり、自信を失っている子どもには挑発は避けるべきだと思います。タイミングを間違えれば子どもの心に傷を残し、信頼もなくなってしまいます。子どもが自信満々にしている時、子どもからエネルギーが溢れ出している時に、上手に挑発することが肝要です。
彼らとの綱引きには根気がいります。綱は、いきなり強く引いても動きません。引いては戻しを繰り返しながら、関係を調整していきます。ROCKETは家庭でその調整が難しくなった子どもたちとの綱引きの場でもあるのです。
本当に才能のある子どもは、冒頭のW君のように挑発されると、負けずに再挑戦してくるはずです。その繰り返しで、大人が想像していたよりもずっとたくましく育ってくれる。そう信じて、今日も私は子どもたちを挑発し続けます。
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中邑賢龍(なかむら・けんりゅう)
1956年、山口県生まれ。東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野教授。異才発掘プロジェクト ROCKET などICT(Information and Communication Technology)を活用した社会問題解決型実践研究を推進。共編著に『タブレットPC・スマホ時代の子どもの教育』(明治図書)など。