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球技には活きないことも多い「バネ」の力 

 だが、そのバネは多くの球技にとっては“両刃の剣”になるものなのだそうだ。

「これは私見ですが野球やサッカー、特にサッカーなどは走っているときの接地時間が長いほうが良い場面もあると思うんです。例えばものすごく固いバネを持っている子がいたとして、すごいストライドを出せる能力があったとします。でも、それって球技に求められているわけではないんだと思います。ストライドを出して走るよりも、細かくピッチを刻んだ方が横にも速く動けるし、ボールコンタクトの数も増やせるので、固いバネはそれほど有利ではなくなってしまう。

 だから球技の選手は徐々に『接地時間が長くても速く走れる走り』に特化していくと思うんです。そうなると、その走り方では10秒を切るのは不可能なんじゃないかな……と。やはりレベルがあがるほど、その競技種目に特化した技能が必要ですから、当然のことだと思います」

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 そういう意味で、足でボールを扱う競技は陸上競技の選手には向いていないという。

「陸上競技との親和性で言うと、ラグビーとかアメフトのバックスというのはあり得ますね。どちらも手でボールを扱うことが多く、走る距離がある程度長い。そういう競技の選手はスプリントをやっても速いと思いますし、逆に陸上選手も向いているかもしれません」

俊足で知られるラグビーの福岡堅樹選手 ©JMPA

隠れた才能を見つけ出すためにも、正確な測定を

 結局のところ、やはり“餅は餅屋”。

 こういった理由から、少なくともトップクラスでいえば50mという距離で陸上競技の選手に勝てる球技の選手はほぼありえないという結論が得られたわけだ。

 ただし、競技人口などを考えると、確かな才能を持った選手が球技の世界にいることも確かだと眞鍋准教授は付け加える。

「専門的なトレーニングをしたら爆発的に伸びるような素材が球技の世界にいるのは間違いないと思います。プロまでいってしまうと体がその種目仕様に出来上がってしまうので難しいかもしれませんが、他競技の学生とかから今後、名スプリンターが出てくる可能性はもちろんありますね。だからこそ彼らの進路を考える上でも、正しい記録の測定を行うことが大切なのだと思います。ゴール地点から動画で撮るだけで、正確に近い数字は測れるわけですから」

大切なのは正確な記録を測ること ©iStock.com

 例えば今季、ドラフト候補として名が挙がる選手の一人には、数年前に全日中の100mと200mで二冠を達成し、現日本記録保持者の“サニブラウンに勝った男”と銘打たれることも多い五十幡亮汰(中大)もいる。

 五十幡の50mの申告タイムは、5秒42である。