コロナ禍で、スポーツ界が大きな影響を受けている。

 それでも、異例ずくめとはいえ季節というのは過ぎ去るものだ。

 気づけばもう、プロ野球ドラフト会議の日が近づいてきている。今日10月12日はプロ志望届の締め切り日で、今年も200人を超える選手がプロを目指すこととなった。

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 今季は新型コロナウイルスの影響もあり、野球界においても試合数が極端に限られている。スカウトたちも足しげく選手たちのプレーを見に赴いているとはいえ、今まで以上に「数字」の持つ力が重要になってくるのではないだろうか。

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 さて、そんな野球界において、野手の能力を計るモノサシのひとつに50m走のタイムがある。例年ドラフト前には彼らのその記録がメディアを賑わすことになる。

「速すぎる」野球選手の50m走のタイム

「50m5秒7の俊足」「俊足巧打の1番打者で、50mは5秒8――」

 野球ファンなら新聞やテレビのニュースで、度々こんな言葉を目にすることがあるだろう。野球における選手の走力の高さを示すのに、読者が身近にイメージしやすい50mの記録というのはわかりやすい指標なのだ。誰もが学生時代に体力テストで測定経験があり、記録のインパクトも伝わりやすい。

現ロッテ藤原恭大らの甲子園での快足を伝えるスポーツ紙

 だが、実はこれらのタイムは現実的にはありえない数字だと言ってよい。

 50m走の日本記録は、100mでも日本歴代6位となる10秒02の記録がある朝原宣治が持つ5秒75。世界記録保持者のウサイン・ボルトでさえ5秒47だ。つまり、毎年野球選手にはプロアマ問わず陸上競技の日本記録を上回る選手が何人もいるということになる。

 ではなぜ、こんな状況が起こってしまうのか。その原因は、簡単に言ってしまえば「測定方法の差が大きすぎる」ことだ。

 手動計測と電動計測の差はもちろん、ストップウォッチを握る人間の技量やスタートとゴールをどこで判断するのか、といった要素が非常に大きな影響を及ぼすからだ。

 一昨年、中京大学の眞鍋芳明准教授らのチームがそんな50m走の計測誤差についての研究論文を発表した(※論文発表時は国際武道大学准教授)。論文の作成理由について、准教授本人はこう語る。

「毎年ドラフトシーズンになると、必ず50m走のタイムの話題がメディアに出てくるんですよね(笑)。私は陸上競技が専門なんですが、他競技を貶めるとかそういうことではなく、単純に他競技の選手って『本当のところ、どのくらいのタイムが出ているのかな』ということが気になったんです」