勝利の可能性は「白人死亡率の上昇」から読み取れた
〈前回の大統領選を振り返ってみましょう。
ヒラリー・クリントンが「自由貿易」「移民受け入れ」「寛容さ」を米国の“理想”として単に繰り返すなかで、米国社会の“真実”を語ったのは、トランプの方でした。
その“真実”は、例えば、1999年から2013年にかけて上昇した「45~54歳の白人人口の死亡率」に現れていました。
中年人口の死亡率の上昇というのは、先進国では前代未聞の現象です。中国との競争に敗れ、産業空洞化が著しい州ほど、死亡率が上昇していたことが示すように、これは、「自由貿易」に大いに関係していました。
私は、かつて「乳幼児死亡率の上昇」から、「ソ連崩壊」を予言しましたが、「保護貿易への転換を訴えるトランプに勝利の可能性」を見たのは、この「白人死亡率の上昇」という指標からです。ところが、エスタブリッシュメント層は、こういう“現実”を見ようとしなかったのです〉
トッド氏がとくに問題視するのは、「左派」を自称する高学歴エリートの自己欺瞞だ。
「エリート主義vsポピュリズム」という分断
〈ニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルス、サンフランシスコなど大都市のメディアや大学のエリートは、トランプ支持者を「学歴がない」「教養がない」と馬鹿にし、ヒラリー本人も、「嘆かわしい人々(deplorable)」とまで言いました。
学歴社会とは、「出自」よりも「能力」を重視する社会です。しかし、本来、平等を促すための能力主義なのに、過度な能力至上主義によって、高学歴エリートが、学歴が低い人々を侮蔑するような事態に至ってしまったのです。
高学歴エリートは、「人類」という抽象概念を愛しますが、同じ社会で「自由貿易」で苦しんでいる「低学歴の人々」には共感しないのです。彼らは「左派(リベラル)」であるはずなのに、「自分より低学歴の大衆や労働者を嫌う左派」といった語義矛盾の存在になり果てています。「左派」が実質的に「体制順応主義(右派)」になっているのです〉
そして、「教育」が「格差拡大」につながっているとして、こう指摘する。
〈これは、「学歴」と「左派」が密接に結びつき、「高等教育」が「格差是認」につながっているという皮肉な事態です。その結果として、「エリート主義vsポピュリズム」という分断が生じています。米国に限らず、多くの先進国に共通する現象です〉
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この他、「米国の原点としての黒人差別」「民主党の対黒人政策の欺瞞」「鍵を握るヒスパニック票」「米中対立」「もし私が米国人だったら……」を論じたエマニュエル・トッド氏「それでも私はトランプ再選を望む」の全文は、「文藝春秋」11月号および「文藝春秋 電子版」に掲載されている。
それでも私はトランプ再選を望む