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馬鹿で、単細胞で、小説のことばかり考えてる。それが幸せ――村田沙耶香(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2016/10/02

genre : エンタメ, 読書

家族から勘当されるかと思いきやほがらかに応援してくれた

――第2作の『マウス』(08年刊/のち講談社文庫)は、女の子ふたりが成長していく話ですよね。

マウス (講談社文庫)

村田 沙耶香(著)

講談社
2011年3月15日 発売

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村田 あれは思春期の苦しさをとことん書いてみようとしたものです。当時は小学校の苦しさというものを書いてみようというのがありました。女の子の友情とか、思春期のヒエラルキーとかコンプレックスとか、そういうことを書いてみたかったんです。でもあの主人公はちょっと『コンビニ人間』の主人公と似ていますよね。バイトにハマって、自分の価値を感じるという(笑)。だからあまり主人公の性愛というものを想像できなくて、『マウス』にはあまり性描写は出てきませんね。

――『授乳』から『マウス』が出るまでに3年ほどかかっていますね。

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村田 書き下ろしを書こうとして、ずっとボツ期間があったんです。本当の順番で言うと、ずっとボツが続いて、その時期に病気も重なって体調を崩して、ちょっとよくなった頃にたまたま編集者さんが依頼をくれて、それで書き下ろしをいったん保留にして「ひかりのあしおと」(『ギンイロノウタ』所収)を書きました。いいタイミングで依頼をもらって書けたので、これは再デビュー作のように思っています。

ギンイロノウタ (新潮文庫)

村田 沙耶香(著)

新潮社
2013年12月24日 発売

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――「ひかりのあしおと」は小学生の頃、公衆トイレに閉じ込められた体験をしてから、光で出来た人影を見るようになった女性の話です。

村田 当時の自分が書きたいことを全部詰め込みましたね。枚数も内容も本当に自由に書いていいよと言われたので、母親との関係とか、男の子に対する発情とか、狂気と正常の境目をゆらゆらしている感じとか、幕の内弁当のように全部詰め込みました。それで体調が戻ったので『マウス』を書き、それから「ギンイロノウタ」を書いたんだったと思います。

――その「ギンイロノウタ」は冷たい父親とヒステリックな母親を持つ少女が、“女”を武器にすることに憧れて育ち、やがて中学生の時に無神経な教師に殺意を抱く……という。野間文芸新人賞受賞作です。

村田 「ひかりのあしおと」を書いて、こういう風に自由に書いていいんだ、と認めてもらえたことが嬉しくて、じゃあ今度もまた自由に書こうと思い、殺意に関して書くことにしました。すごく内気な女の子をとことん書いてみようとも思いました。自分が内気だったから、自分よりさらに内気な子を書いて、自分よりもさらに自分の核心に近づけるような子を書いてみたかったんです。だから自分よりももっとひどいというか、対人恐怖症に近い女の子になりました。でも、なんでああいうテーマになったのかは分からないです。

――銀色のステッキを持った魔法少女のパールちゃんに憧れたり、いろんな目の写真を切り取って集めたりと、印象に残る部分がたくさんあって。主人公が殺意をおぼえる先生が、ものすごく嫌な奴でしたね。

村田 あの人本当に嫌ですよね(笑)。「授乳」を書いた時と同じように、言葉に私なりにこだわってみたかったんですが、ストーリー自体もなんだか入り組んだものになりましたね、今考えると。確かに魔法少女に憧れたり、目がいっぱい自分を見ている感じは、自分が幼少期に多少抱いていた感情をもっとグロテスクにしたものですね。自分自身が思春期ではなくなって、冷静にそういうギリギリの感じを描けるようになっていたのかもしれない。だから女の子の自慰のようなシーンも含めて、全部詰め込んで書いてみたのかもしれません。

――家族問題も詰め込まれたこの作品で野間文芸新人賞を受賞し、家族でお祝いの食事会をしたんでしたよね(笑)。

村田 そうですね、ほのぼのとみんなで食事をして(笑)。うちの家族は私の小説を誰も読んでいなかったんです。だから応援してくれるんだと思うんです。村田家は家族に問題があるわけではないんです。父も職場の人に『タダイマトビラ』(12年刊/新潮社)にサインしてほしいと頼まれたと言ってきたりして。

タダイマトビラ (新潮文庫)

村田 沙耶香(著)

新潮社
2016年10月28日 発売

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――『タダイマトビラ』って家族に大問題がある話なのに(笑)。

村田 それで私がサインをしたら、「じゃあ俺も」といってそこに自分もサインをしていました。すごく謎の貴重さのサイン本ですよね(笑)。こういう小説ばかり書いていたらいつか勘当されるだろうなと思っていたんですけれど、そんなふうにほがらかに応援してくれていて、本当にいい人たちだなあって。あと、読んでないんだなって(笑)。芥川賞を受賞した時は、父から「対応に大変だろうが、冷静に対処するように 父」みたいなメールがきました(笑)。

――いいご家族ですよねえ。さて、『ギンイロノウタ』の次に刊行されたのは『星が吸う水』(10年刊/のち講談社文庫)ですね。これは複数の女性が出てきて、セックスがテーマになっています。

星が吸う水 (講談社文庫)

村田 沙耶香(著)

講談社
2013年2月15日 発売

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村田 それまで思春期の女の子ばかり書いてきましたが、担当さんに「一回友達がいる主人公を書いてみたらどうですか」と言われて、そういえばみんな誰も友達がいないなと気づきました。友達がいる人を書こうと考えた時、思春期ではなく大人の年齢にしてみようと思いました。わりと当時の自分に近い年齢の女性3人で、結局性愛の話になっているのは私の趣味なんですが。