「駄菓子屋のくせに消費税取るのか!」
駄菓子屋の利益率は、売り上げの2割程度と言われる。持ち家ならまだしも、借家で商いを続けるとなれば、懐事情は相当に厳しくなる。客単価もせいぜい数百円で、1000円を超えることはほとんどない。
上川口屋の奥の壁には「税込み早見表」と書かれた冊子が貼り付けられ、税込み価格が、10円ごとに記されている。消費税8%の計算がややこしいからと、雅代さんの息子が用意してくれたのだ。めくりすぎたせいか、最初のページはぼろぼろだ。この早見表は1200円までしか表示されておらず、それが客単価の上限を暗示していた。消費税をめぐって、雅代さんがこんな苦い体験を語ってくれた。
「3%の時は計算がやっかいだし、子供からも取りにくいからと我慢してたんです。でも5%に上がった時にさすがに取り始めたら、『駄菓子屋のくせに消費税取るのか!』と文句言う大人がいてね」
中にはこんな嫌味を言う客もいた。
「5%だったら10円50銭だろ!」
お釣りを返せないため、雅代さんが2つ買って下さいとお願いすると、
「2つはいらないんだよ」
と、立ち去られた。
「子供を騙して消費税取るの?」
「消費税を支払っている証拠を見せろ」
などと迫られたこともある。確かに微々たる金額かもしれないが、駄菓子屋の懐事情を考えると、そうも言っていられなかった。
もやしとパンの耳で凌ぐ
雅代さんが打ち明けてくれた。
「もともと駄菓子屋なんて儲かるもんじゃないです。昔っから利益率が薄いんですよ。普段は売り上げが3500円~4000円。30日やったとして12万円ぐらいでしょ? 利益率は売り上げの2割だから、うまくいって3万円が私の月収です。お正月の三が日は1日の売り上げが6~7万円いきますけど、でもたった3日間だけです。あとは閑古鳥ですよ。月収3万円でどんな食生活か想像できないでしょ?」
そう言って雅代さんは店の奥へ行き、両手にもやし4袋を抱えて戻ってきた。
「もやしは3袋で108円。これだって栄養あるのよ! スーパーに行っても、青物はちょー高いんです。大根とかキャベツを買いたい。おでんみたいなのも作りたい。でも大根は200円もするから、100円以上は絶対に買わない。小松菜も体に良いし大好きだけど、4株で200円ぐらいして。2株で100円だった時は飛びつきましたね」
もちろん、もやしばかりを食べているわけではない。インスタントラーメンに入れたり、ナムルにしたりする。米はあまり食べず、1袋20~30円で売っているパンの耳を買ってくる。最近はパンの耳が売っていないため、賞味期限が近い、値引きされた干しぶどうパンで代用しているという。
「魚も食べますけど、肉は好きじゃないです。今は洋風化して肉食が多いんですってね。でも魚も高いのよねえ。たまには食べなきゃいけないから、サバ缶とイワシ缶を10日に1回ぐらい食べています」