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「彼女に何でもない人にはなってほしくなかった」

――でも、お二人の出会いはお堅い研究会だったんですよね。

 カラオケです。

信子 (笑)。2010年につくばの研究所にいた友人と人工知能について語る会があって、そのときが初対面でしたね。その会の参加者は意気投合して帰りにカラオケに寄って、私はX JAPANや聖飢魔Ⅱを、圭さんはIZAMさんに代表されるような女装系のヴィジュアル系を歌って楽しみました。

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 ちなみに、圭さん本人もしばしば女装をすることもあって、腰まで届くロングヘアにしていたときは清少納言と呼ばれていたそうですよ。

妻が描いた夫の肖像画。一緒にいると描きたくなる

 それも自由な表現の一環です。

信子 カラオケの日からまもなく、気がついたら付き合い始めていました。結婚する前に圭さんがこう言っていたのをよく覚えています。私が「結婚したら、研究も仕事もやめて楽なアルバイトでも探そうかな」と言ったら、「そういう感じだったら僕は結婚しない」と。

 当時、私はつくばで初音ミクのボーカロイドの制作にもかかわるなど、音楽技術の研究をしていましたが、まだ何者でもなかった。何でもない人になるのは嫌だし、彼女に何でもない人になってもらうのも嫌だというようなことを思っていましたね。

信子 私はフランスでのポスドク(博士研究員)期間を終え、人生が空疎に感じられ、ブラックホールが自分の中にあるような状態でした。圭さんに言われて、何でもない人になるのではなく、自分にできることをやってみようかと思った。言ってみれば、圭さんがブラックホールを消してくれたようなものです。

 

※続きは発売中の「週刊文春WOMAN 2021創刊2周年記念号」にて掲載。

なかののぶこ/1975年東京都生まれ。東日本国際大学特任教授。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。「週刊文春WOMAN」で人生相談を連載中。

なかのけい/1973年東京生まれ。大阪芸術大学芸術学部准教授。東京造形大学卒。来春よりウェブ現代新書にて「遺跡をめぐる旅(仮)」を連載の予定。

photographs:Takashi Shimizu