文春オンライン

BLACKPINKが乗り越えた“壁” 「アイドル」と「女性アーティスト」の2つに向けられた偏見

2021/01/30
note

2NE1の「I AM THE BEST」

 そのなかでもとくに大きな「影響力」を発揮したのは、YGエンターテインメントの4人組グループ2NE1だった。代表曲「I AM THE BEST」のヒップホップベースの強烈なサウンドと「私こそ最高」と主張するその大胆な表現で、彼女たちは一気に「ガールクラッシュ」(女性を熱狂させる女性)の象徴として浮上した。マイクロソフトの「Surface Pro3」CMをはじめ、多くの国のマスメディアは、「現地化」されていない韓国語歌詞の「I AM THE BEST」を流した。

2NE1「I AM THE BEST」

https://www.youtube.com/watch?v=j7_lSP8Vc3o

 彼女たちの「強い女性像」は、「なぜ世界中の若者がK-POPに熱狂するのか」という欧米メインストリームの疑問に対するひとつの答えでもあった。2NE1が2014年のアルバム『CRUSH』で記録した「Billboard200」(アルバムチャート)の61位は、当時としては男女を問わずK-POPアーティストが成し遂げたもっとも高い順位だった。

ADVERTISEMENT

 2012年にビルボードの「HOT 100」(シングルチャート)の2位を記録したPSYの「江南スタイル」が、デジタル化したグローバルな音楽市場におけるK-POPの「商業性」の力を確認させる現象だったとするならば、2NE1が表現する「強い女性」としてのサウンドとイメージ、メッセージが成し遂げた成果は、時代の変化に積極的に向き合うK-POPの(かつて「ロック」がそうだったように)「政治性」をも同時に発見させるものに他ならなかった。

 当時は、ちょうど世界の音楽業界においても、女性アーティストの音楽的・社会的影響力が拡大し、音楽産業のあり方を大きく変えた時期でもあった。その代表的なアーティストがレディー・ガガ。2008年にファーストアルバム『The Fame』を発表して以来、全ての音楽チャートと音楽賞を席巻しながら音楽的・商業的成功を収めていった彼女は、2010年代に入ると社会的にも世界にもっとも大きな「影響力」を持つアーティストとして浮上した。

 レディー・ガガの影響力をより社会的なものに媒介したのは、YouTubeやTwitterなどのソーシャルメディアだった。グラミー賞のポップ全部門を受賞するほどの音楽的才能とともに披露する常識を破壊する実験的ファッションとパフォーマンスを通じて、彼女は「女性」のフレームそのものをも破壊しながら、ジェンダーの差異による不平等や差別に反対する強いメッセージを発し続けた。そのメッセージは、ソーシャルメディアを通じてグローバルに拡散し、「ガガ・フェミニズム」と称されるほどの力を発揮した。

 つまり2010年代前半の、2NE1をはじめとするK-POPガールグループの「ガールクラッシュ」は、時代が求める感覚とリンクするものだった。それは当時のさまざまな記録が物語っている。例えば、アメリカの代表的な音楽雑誌のひとつ『SPIN』は、「2011年のベスト・ポップ・アルバム20(SPIN’s 20 Best Pop Albums of 2011)」で、2NE1の『2nd Mini Album』を6位に、少女時代の『Girls’ Generation』を18位に上げた。1位はレディー・ガガの『Born This Way』だった。このような女性アーティストたちの影響力は、その後2010年代全体の音楽的・社会的変化と絡みながらより急速に拡大していった。