そうなると、日本国内でストーリーが完結するプロ野球選手やJリーガーは厳しい。NPBからも誰ひとりとして、子どもたちの好きなスポーツ選手トップ10にランクインしていない。
例えば90年代の松井秀喜の顔と名前は教室の男子のほとんどが知っていたはずだが、今シーズンの本塁打王と打点王に輝いた令和の巨人軍の4番バッター岡本和真を知っている小学生は決して多くはないだろう。数年前にプロ野球選手の都内小学校訪問を取材したことがあったが、選手の名前はもちろん、バットの握り方すら知らない子もいて驚いたのを覚えている。
そのシステムに賛否はあれど、日本では長い間、テレビの地上波ゴールデンタイムの巨人戦ナイター中継からプロ野球に触れていた家庭が多かった(というかチャンネル権を持っていた父親の隣で巨人戦中継に付き合う内に野球を覚えた子供は多いはずだ)。毎晩視聴率20%越えの朝ドラ級の“国民的娯楽”コンテンツ。だが、10数年前から巨人戦の地上波放送が激減、地元のチームという意識が低い首都圏では野球中継そのものが消えた。
テレビを見ない子供たち
しかも、総務省の「令和2年版 情報通信白書」によると、10代のテレビ視聴時間は30代の約2分の1、50代の約3分の1まで減少している。これにより、若年層はテレビの主力ソフトでもある国内スポーツに触れる機会も減ってしまった。高度経済成長期から長年続いた、テレビと家庭とプロ野球を繋ぐ関係性もついに終わりを迎えたわけだ。
やがてネットやスマホからリアルタイムで海外スポーツ情報を知るようになり、いつからかスポーツニュースも様々な「世界で戦うアスリート」を大きく取り上げるようになった。
そうなると熱心な野球ファンは各々DAZNやスカパーと契約してペナントレースを追いかけるわけだが、それは同時に他ジャンルの競争相手と同じ土俵に上げられることを意味した。アニメ『鬼滅の刃』はジャンプ読者やテレビ放送時のリアルタイム組だけでなく、Amazonプライム・ビデオやNetflixの定額制の動画配信サービスで見たユーザーも多い。劇場版の大ヒットもあり、そういう後追い組が日に日に増え社会現象にまでなった。テレビの再放送を待つか、巨大な弁当箱のようなビデオテープを店舗でレンタルしていた時代とは違い、自分の好きな時間にアプリで手軽に素早くいくらでも楽しめる視聴環境。つまり、野球にしろサッカーにしろ、スマホの画面上では無数の映画やアニメと並列に並んでいる。