安藤 『マンガ 認知症』、読みましたよ! 解説もわかりやすいし、楽しく読めるのがよいですね。とくに印象に残っているのが、第3章「何度注意してもお米を大量に炊いてしまうのはなぜ?」で、延々とおにぎりを作る婆ルさん(ニコルソンさんの祖母の作中での呼び名)。家族からしたら「そんなにたくさん食えねえし、もうやめてくれよ」という気持ちだと思うんですけど、婆ルさんは「家族にご飯を食べさせたい」という一心で何度もお米を炊いちゃうんですよね。その姿が愛おしくて。マンガの中のいろいろな表情に、婆ルさんのこれまでの人生が刻まれているのを感じました。
ニコ うちの祖母の場合、9人姉弟の長女で、子どもの頃から炊事を任されていて、「家族に食べさせること」がすごく大切なことだったので、認知症になってからもお米を炊くことに執着してしまうのかなと。
認知症の方の言動には、その人の人生が現れるそうです。認知症になって別人のように変わってしまったように見えても、私が上京した時に「ちゃんと食べてる?」って心配して段ボールいっぱいに食品を詰めて送ってくれた祖母のままなんですよね。認知症の方の心の仕組みを知ることで、理解不能だと思っていた祖母の行動への見方が変わり、介護するときの気持ちがすごく楽になりました。
物書きや芸人は、介護に向いている?
ニコ うちの母がそうなんですけど、認知症の方との会話をどう受け止めたらいいのか悩んでいる方は多いですよね。以前、祖母が深夜にいきなり「親戚がいま遊びに来てたでしょ! どこいっちゃったの?」と騒ぎ出したことがあったんです。私がとっさに「さっき帰ったよ!」って返したら、すぐに落ち着きました。マンガ家は話をつくるのが仕事なので、とっさの対応が人より上手いのかもしれないと思ってるんですけど、安藤さんは認知症の方とお話しするときに意識していたことはありますか?
安藤 それを聞いて、施設で夜勤を担当していた時のことを思い出しました。認知症のおばあちゃんが真っ暗で寝てるなかで、ちょっとだけ明かりをつけて、そーっとお布団をめくってオムツ交換しようとしたら、急にバチって目を開けて、「バケモンだー! バケモンがきたぞー!」って大声で叫ばれてしまったんですよ。
ニコ (爆笑)
安藤 「はい、バケモンがやってきましたー! バケモンが、ちょっとだけね、オムツ見させていただきますけれど」っていう感じでやらせてもらって。「みんなー! バケモンだー! みんな起きてー!」ってさらに人を呼ばれてしまいましたけど。
ニコ ものすごい受け止め力! なかなかそんな風に返せないですよ。