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マッチは何本使われたのか

 三好さんは、前述の小説『ふたりの真犯人 三億円の謎』のなかで、現場にマッチが残されていたことに言及している。小説仕立てではあるが、捜査幹部が実名で登場するなど細部は実質的なノンフィクションである。

「それを書いたら、その後に出てきた自称実行犯たちの一部が“実はマッチを使った”と言い始めた。どうもいろいろ読んで、勉強しているみたいなんだな(笑)」(三好さん)

 事件発生から50年が経過した2018年12月、3億円事件をモチーフとした1冊の本が話題となった。白田という人物による『府中三億円事件を計画・実行したのは私です。』(ポプラ社)がそれだ。

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 同書も、フィクションとうたってはいるものの「実行犯の手記」ではないかと話題になり、結果的に13万部のベストセラーとなった。

 この作品にもまた、発煙筒の着火方法についての記述が登場する。「マッチを使用したが最初はうまくいかず、発煙筒の包装を剥がし、火を直接火薬に当てた」という趣旨の説明がなされているが、結局、何本のマッチが使われたのかは書かれていない。

 

 ちなみに、発煙筒は日本カーリット製の「ハイフレヤー5」だったが、むき出しの発煙剤に直接火を当てるというのはあまりに危険な行為で、通常の燃焼効果は得られず、ごく短時間でそのような手順に踏み切ることができるとは思えない。「秘密の暴露」とはほど遠い内容である。

「真犯人にはどうしても聞きたいことがあるんだよ」

 では、現場に残されていたマッチの軸の本数とはいったい何本だったのか――すでに三好さんは泉下の人となったが、ここでそれを明かすことは控えたい。

 時効成立後も情報源との約束を守り、核心の情報を最後まで書かなかった三好さんの「仁義」に敬意を表するためである。

「真犯人にはどうしても聞きたいことがあるんだよ。現金を何に使ったかとかじゃなくて、この犯行計画の立案者は誰だったのか。そして何かに着想を得たとすれば、それは何だったのか。聞いてみたいね」(三好さん)

 生前の三好さんが心待ちにしていた真犯人による「真実の告白」。これまで誰も答えられなかった「マッチの本数」が明かされる日はやってくるのだろうか。