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 ああ、すべては「百合子のために」。こんな無意味な右往左往に付き合わされる都庁職員はたまったものではない。一体何のために働いているのかわからなくなっても不思議ではないのである。

 私だったらとっくに辞めているだろうが(いや実際は、小池知事に辞めさせられたわけだが……)、それはともかく、現役の職員にとっては生き残りのための処世術が必要だ。小池知事から自分本位で身勝手な指示が降ってきても、全力で対応してはいけない。必要最小限のエネルギーでそこそこ体裁を整えて対応し、あとはじっとしているに限る。そうでなければ、心身共に疲弊し切ってしまうだろう。

つべこべ言わずにさっさとやれ

 ポピュリストの恐ろしいところは、こうした人気取り政策や批判回避政策に際限がないことである。次から次にマスコミ受けする動きを演出し続けなければ、自転車操業よろしく、小池知事自身が転倒してしまうからだ。この悪夢のような政治的な手法により、都庁職員は雨あられの指示に対して応え続けなければならないという無限ループに飲み込まれてしまうのである。

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 現在、小池知事直属の都庁官僚たちの多くは、財務局主計部出身者、つまり予算を通じて都政をコントロールする術に長けた人材で固められている。そんな彼らのモットーは「つべこべ言わずにさっさとやれ」である。チームワークによる共同作業とかディスカッションを通じての問題意識の共有とか、そんなものは一切関係ない。有無を言わさぬ強圧的な姿勢だけが、女帝のオーダーに応える唯一の道なのである。

依怙贔屓を横目に口を閉ざす都庁職員

 こうした無神経な振る舞いができる人間だけが重用され出世していくのが、今の都庁だ。大多数の職員は小池知事によるそんな依怙贔屓を横目で見ながら、唯ひたすら口を閉ざしている。だが内心では、都庁のトップに君臨するこの壊し屋が一日も早くいなくなるのを待ち焦がれているのである。

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 7月4日の都議選の結果、都議会の勢力分布が激変した。自民33、都ファ31(その後、除名1名で30)、公明23、共産19、立民15。勝者なきドングリの背比べの中、際立ったのは小池人気の根強さである。ご本人も「これは行けるっ」と確信したに違いない。

 小池さんには是非、この抜群の人気と卓越した選挙戦術を、都庁とは別の場所で存分に活かしていただきたいものだ。それが、都庁職員の切なる声に応える最良の方法である。

ハダカの東京都庁

澤 章

文藝春秋

2021年6月10日 発売