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――オノマトペも使えませんし、漫画的なあの記号みたいなものも最小限に抑えられています。

たき そうですね、猫の鳴き声は「♪」で表現したり、あとは「!」と「?」ぐらいまでしか使ってないですかね。猫は喋らないけど、猫が言いたいことはわかるじゃないですか。ドアの前で待ってたら開けて欲しいのかなとか、エサ皿の前でこっちを見ていたらごはん欲しいんだなとか。

 だからその猫をそのまま描くようにしています。題材的にもサイレントマンガとは相性が良かったんだと思います。

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「猫ってそのまま描けば、通じるところがあるんですよね」

――椅子や子どもたちにぐてっともたれかかる様子など、猫の重さの表現もすごくかわいいです。猫を描くときに何か心がけていることはありますか?

たき 猫って人間みたいに笑ったりはしないじゃないですか。表情があるように見えるのは、こっちが勝手に受け取っているだけなんですけど、猫ってそのまま描けば、通じるところがあるんですよね。そういう、なんかわかったような気がしてうれしい感じとか、気持ちが通じ合ったような気がしてうれしい感じが伝わるように意識しています。

©️たきりょうこ

 あとはカメラワークですね。『職場の猫』ではあまり難しいカメラワークするとなにが起こったかわかりにくくなっちゃうので、わざと定点観測っぽくしています。これ、うめ先生の影響なんです。

 うめ先生ってよくモノや人を真正面から描くんです。たとえばティッシュの箱を真正面から描いちゃうと、ただの長方形になっちゃうから、斜俯瞰から描いたほうが本当は楽なんですよ。でもそこを敢えて真正面から描くんです。

 写真だと人やモノを真正面から撮るのってかっこいいですよね。だけどそれは写真は情報量が多いからで、絵だと非常に難しい。でもうめ先生は怖がらずにわざわざ真正面を選ぶんです。たぶん小沢さんが写真の勉強をしていたからだと思うんですけど、それを見てから私も怖がらずに真正面から描くことが増えました。

 映画でも小津安二郎の真正面からの構図ってめちゃめちゃかっこいいじゃないですか。机にあるものとか、その空間にあるたとえばティッシュの箱の銘柄がわかるくらいまで細かく描けば、真正面の絵でも伝わるんです。

システムエンジニアから転身…「今とは全然違って、もっと頭身の高い絵を描いていまいた(笑)」

――なるほど。影響を受けたというお話がありましたが、そもそもうめ先生のアシスタントについたのは、どういったきっかけだったのでしょうか?

たき ゲームクリエイターの世界を描いたうめ先生の『東京トイボックス』を愛読していたんです。そうしたら先生のサイトでアシスタント募集の告知があったので、応募しました。

――もともとファンだったんですね。

たき はい。業界もの・仕事もののマンガに興味があったので、自分が描きたいマンガの参考になるかもしれないという気持ちもあったんですけど、結局は全然違うものを描いていますね……。以前はシステムエンジニアとして働いていたんですが、それも実は会社員が登場するマンガを描きたかったからなんです。

 その頃はちょうど、マンガがやりたくて会社を辞め、雑誌に投稿をしながら方々にアシスタントへ行っていました。アシスタントをしながらWebでイラストレビューを書いたり、2017年には共著ですが『はじめてのプログラミング』(学研プラス)という本も出しました。単著はこの『職場の猫』と、同時発売の『本日のエンジニアさん』が初めてです。