読売の特ダネのように思われるが、18日付朝刊は毎日も報じていて、見出しも「身代金二百万円を要求」と正確。「捜索願が出ているのは確かだが、詳しいことは捜査の都合で言えない」という大森署の談話に加えて、「たか夫人の話」が載っている。「15日朝もとても元気でした。いま神経がいらだってずっと眠れないので、心配で何も言えません」。
新聞に載った脅迫状「悪人の仁義として生命は保障するから安心せられたし。ただし…」
朝日の第一報は18日付夕刊で、本名を正しく記述しているほか、警察発表を基にしたと思われる内容を報じている。脅迫状の全文も載っている。
正美ちゃんを暫時拝借。悪人の仁義として生命は保障するから安心せられたし。ただし、ここ数日中に金二百万円の身代金と交換の条件なり。当局などと連絡は貴方に不利な結果を及ぼすものと自覚ありたし。当方よりの連絡を待たれたし。
脅迫状は「白い長封筒にワラ半紙色の便箋に書かれてあり、消印は15日午後0時~6時、井之頭局で、宛名はごく一部しか知られていない、谷さんの本名・大谷正太郎となっており、差出人は武蔵野市吉祥寺2003、原靖夫とあった」としている。
また、見出しの1本には「犯人は顔見知りか」があり、その理由として記事は
(1)脅迫状の宛名
(2)原稿慣れのした達筆
(3)子どもが黙って連れて行かれた
(4)連れていかれたのは家と反対方向
(5)最近は付き人が送り迎えしていたが、当日は休みで、そのことを知っていた可能性がある
を挙げている。「原靖夫」も住所も該当がないと分かった。記事には、谷夫妻と次男、見舞いに訪れた「喜劇王」榎本健一(エノケン)が写った写真や脅迫状の写真が添えられている。
当時は人を誘拐して身代金を要求する犯罪は珍しかった。7月21日付読売朝刊社説は「正美ちゃんを帰せ」の見出しで、事件は「確かに終戦後は犯罪の様相が一変した。わずかな恨みや利益のために、平気で殺傷する凶悪犯が激増したのである。だが、今度の事件のように卑怯で悪質な犯罪はまず初めてだといってよい」と書いている。
「これは日本でも珍しい事件だ」
7月18日付夕刊読売は「米国では死刑もの」の見出しで、元捜査幹部の見方を取り上げた。