「オーナーの判断で投稿は削除」変更された会員規約
また、はあちゅう氏側は訴状のなかで、Aさんが告発の削除について「無断で」と記したことも《真実ではない》としている。サロン会員規約に記されている「オーナーの判断で投稿は削除する」という文言を理由に、削除は無断ではないと主張するのだ。
「いくら規約に書いてあったとしても、B子さんに確認をとっていない以上、無断は無断でしょう。それに、私がサロンへの参加を決めたときには、そんな規約はありませんでした。訴状でも、規約の文面は、2020年頃に作成されたと説明されています。B子さんがセクハラを告発したのは2018年8月ですから、当時には記載されていなかったことになります。それを根拠に“無断ではない”と言い張るのは、明らかにめちゃくちゃです」
総務省で提言 情報開示請求の濫用
精神的苦痛の慰謝料として、はあちゅう氏側が請求する額は20万円。Aさんによれば「名誉毀損の慰謝料として極端に安いというわけではないが、おそらく弁護士費用は下回る金額」だという。
SNSでの誹謗中傷は深刻な社会問題だ。だからこそ、はあちゅう氏が行った発信者情報の開示においても、約240件に開示決定が出たのだろう。しかし、投稿者の情報開示は慎重に行うべきだという意見もある。2020年8月28日に行われた総務省の「第5回発信者情報開示の在り方に関する研究会」ではこんな提言がされている。
「誹謗中傷対策をうたう弁護士の方の中で、有名人やタレントに対して手数料なしで 発信者への通知を引き受けると喧伝したりとか、あるいはアンチの顔を友人限定で回覧し ているとつぶやく弁護士がいたりとかして話題になっておりまして、今後、制度の濫用的 な事案が増えていかないかという懸念があります」
――「第5回発信者情報開示の在り方に関する研究会」より
Aさんは今回の訴訟について「発信力のある弁護士を訴えることで、自身への批判的な意見を牽制しようという狙いも垣間見える」とも語る。
「本件については到底認められる余地のない不当訴訟です。ただ、私は訴訟を提起されたこと自体に精神的に大きなショックを受けました。自らセクハラの告発をしたインフルエンサーが、主宰するオンラインサロン内でなされたセクハラの告発を無断で削除したこと、さらにそれを不当だと指摘しただけの私に対して訴訟を提起するという行動は、一貫性を欠く支離滅裂なものです。セクハラの撲滅を含めた社会正義の実現よりも自らの保身を優先するもので、社会的影響力をもった方の行動として許されないものだと思います」
はあちゅう氏に事実関係を尋ねたところ、秘書を通じて「進行中の裁判に関しては裁判に影響が出る可能性があるので、お答え出来ず、本取材に関しては回答を控えさせていただきます」と返答があった。
東京オリンピックにおいても問題視されたSNSでの誹謗中傷。社会的にも法的措置を後押しする風潮が醸成されつつあるが、はあちゅう氏の訴訟にはどのような司法判断がくだされるのだろうか。