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(8)立川までの34.9キロ、実際に歩いてみたら……

『シン・ゴジラ』劇中のように、立川に内閣がそっくり移るような事態になれば、現状では国家行政にかなりの混乱を来たすことは想像に難くない。

 劇中、矢口が都心から一晩かけて、徒歩で立川の災害対策本部予備施設まで移動するシーンがある。実は霞が関一帯が被災し、政府中枢の業務継続が困難になった場合の、災害対策本部要員の徒歩による移動についても政府は検討している。2013年に内閣府(防災担当)がまとめた「政府中枢機能の代替拠点に係る基礎的調査業務 報告書」では、閣僚などの要人200名は自衛隊のヘリで移動することを想定し、その他の初動人員2,000名、後続人員として10,000名の移動についてはチャーターバス、それも使えなければ徒歩で移動することを検討している。

 このシミュレーションでは、霞が関にある中央合同庁舎第5号館を出発点として、立川広域防災基地までの約34.9kmを災害時は休憩時間含め約16時間(平時は11時間)で歩くことを想定している。劇中で矢口が歩いたのも、これに近い距離だろう。

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 筆者は今春、『シン・ゴジラ』の設定資料と、内閣府の移動シミュレーションで検討された移動ルートを突き合わせ、矢口が歩いたと思われるルートを再現し、劇中や内閣府のシミュレーション通りになるかを実際に歩いて確かめてみた。

 青線が矢口が通ったと思われるルート、赤線が内閣府が実際に検討したルートだ(https://goo.gl/YEQJzq​)。矢口は地下鉄赤坂五丁目駅(実在しない)あたりからスタートしたと思われるので、設定上駅が存在する赤坂五丁目交差点を朝8時に出発したところ、立川の予備施設には17時25分に到着した。

 実際に歩いてみた感想としては、全行程のおよそ半分の地点である吉祥寺駅周辺から肉体的疲労が現れ、女子高生に追い抜かれるくらい歩くスピードが落ちていた。吉祥寺西公園での昼休憩では、その近くで某テレビ番組の撮影でカフェ飯巡りしている芸能人一行を恨めしく見ながらオニギリを口にした(実際の移動では簡単な食事以外食べられないだろうと想定したため)。小金井市に入ったあたりからは憂鬱な気分に支配され、玉川上水沿いの新緑美しい緑道を「もう二度とやりたくない」と思いながら歩いていたのが正直なところだ。

 これを行うにあたり、筆者はウォーキングシューズにコンプレッションタイツを履き、直射日光による疲労を避けるためにツバ広の帽子を被り、目を完全に覆うタイプのサングラスをするなど、完全武装で挑んでこの有様だった。晩秋の11月にスーツと革靴で一晩かけて立川まで歩き、そのまま執務を行った矢口のバイタリティは相当のものだろう。実際に中央省庁の職員が徒歩移動した場合、被災地を通ることを考えても、脱落者は少なからず出るかもしれない。また、内閣府の検討ルートの中には、歩道もないのに交通量が多くかつ狭いという、少々危なく感じたポイントも1箇所あった。

(9)臨時政府の舞台を見学するには?

 さて、2回にわたり、『シン・ゴジラ』の舞台となった2つの施設を軸に、日本の危機管理の一端を紹介したが、これらの施設は通常は一般に公開されていない。首相官邸で定期的に行われている特別見学は、小学校高学年と中学生を対象として学校が申請するもので、見学できる人は限られている。

 災害対策本部予備施設については、立川市が見学会を開催しており、今年は11月23日に予定しているが、残念ながら10月31日で申し込みは締め切られている。どうしても行ってみたい方はこまめに立川市のサイトをチェックしてみるといいかもしれない。

 しかし、予備施設は難しくても、立川広域防災基地自体に入るのはハードルが低い。東京消防庁の立川防災館は開館日ならば誰でも無料で見学可能だ。また、防災基地内に設置されている各機関の公開日に行けばその部分は見ることができる。例えば、予備施設公開日と同じ11月23日に、立川防災航空祭が防災基地内の陸上自衛隊立川駐屯地で予定されており、こちらは申し込み不要。防災基地内の警察、消防、海上保安庁、災害医療センターなどの防災関係機関についても紹介展示されているので、機会があったら見に行ってもいいかもしれない。