悪気のない言葉が「あなたは死なないんだ」という意味に聞こえた
ただ、正直な気持ちとしては最初、手記を出すことにとても悩みました。それは文春オンラインさんで最初の一報が出るときと同じ気持ちで、批判の声もあるのかなと思ったからです。
報道される前は首の皮一枚で繋がっているような精神状態で、報じられた後の5月当初は不審者が家を尋ねて来たり、深夜に玄関のノブがガチャガチャ動くこともありました。周囲への広まり方も想像以上で、興味本位で電話をかけてくる人も増えて、精神的に辛くなり、誰とも連絡を取りたくないと思う時期もありました。
連絡をくれた皆さんが悪意を持っていたわけではないことは理解していたのですが、言葉一つ一つにすごく傷ついてしまうことがありました。『私だったら子どもが亡くなったら死んじゃう』『子ども亡くしたら、私なら生きていけない。でもお母さんは強いですよね』。その悪気のない言葉が私には『あなたは死なないんだね』という意味に聞こえてしまったのです。
静かな場所がなくなり、追い詰められていました。でも、報じていただいたことに後悔したわけではなく、ただ疲れたという感じでした。何日も考え、世論を巻き込んで爽彩が生きていた証を大きくしてくださったきっかけを残しておく必要があるのかと思ったんです。そんなときに取材班の方から“手記を書いて、爽彩さんの生きた証を残してくれませんか”と言われ、私はそれに任せようと思ったんです。あの呼びかけがきっかけでした」
やっていいことと、いけないことの区別はつけるべき
廣瀬さんは自らの手記で爽彩さんの友達に伝えたい思いがあった。
「爽彩はイジメを受けてからはネットで交流する人が多くなりました。ネットは個人名もなければ、どんな人なのかもわからないけど、支えてくれたお友達もいて。ネットの仲間は2次元かもしれないけど、お互いに存在している人物ですよね。そんなネットのお友達に手記を通して爽彩の人となりというものをわかってもらえるのかなと思ったのです」
しかし、爽彩さんの居場所だったネットやSNSでは今も、旭川事件に関する憶測やデマ情報、誹謗中傷が蔓延する無法地帯となっている。このことについて、母親は心を痛めている。
「たとえ真実であっても、虚偽であっても、ネットで個人名や写真などを無断で上げることは、名誉棄損罪になる可能性があるということを理解してほしいです。人としてモラルやネットマナーを理解してSNSやYouTubeは行ってほしいですし、安易に人の名前を出していいことにはならないと思います。子どもたちがYouTuberやインフルエンサーになることを夢見ている中で、大人がマナーを守って子どもに教えるべきなのに、大人がマナーを破って子どもに見せつけるというのは違うんじゃないかなと思います。デマ情報を書かれた方もすごく迷惑を被りますし、被害を受けた無関係の方が弁護士を立てて訴えなければいけないということになってしまいます。やっていいことと、いけないことの区別はつけてほしいです」