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キムタクと喧嘩する女優はノッている…見過ごされてきた、木村拓哉の意外すぎる“本質”

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2021/10/01
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演じ続けてきたのは、喧嘩のできるリアルな男の子

 今、日本のラブストーリーに登場する男性像には2つの潮流がある。ひとつは少女漫画原作的な“ドS王子”とでもいうべき、圧倒的な男性性とリーダーシップで内向的なヒロインをリードする「支配する」男性像。もう一つは『逃げ恥』の津崎平匡や『おかえりモネ』の菅波先生のように、ヒロインに対して常に敬語で話し、女性性を思いやり傷つけない、アップデートされたリベラルな、「寄り添う」男性像である。

 だが、20世紀から木村拓哉が演じ続けてきたのは、そのどちらでもないのだ。山口智子や松たか子らが演じる歴代のヒロインが求めたのは、支配する男性でも寄り添う男性でもなく、自分と50−50のフェアな勝負をしてくれる、対等にバチバチと喧嘩のできるリアルな男の子だった。

『ビューティフルライフ』で常磐貴子が演じる車椅子のヒロインは、自分を崇拝するように保護しようとする男性に居心地の悪さを感じ、対等な目線で喧嘩のできる美容師の青年に惹かれていく。木村拓哉はそうしたヒロインたちに応えるように、彼女たちのスパーリングパートナーをつとめてきた。

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 ヒロインたちは人生のどこかで木村拓哉と出会い、木村拓哉と戦い、そして木村拓哉から旅立っていく。木村拓哉という俳優はどこかで、自分が演じる物語の中心にいるのが本当は自分ではなく、成長し、自立していく相手役のヒロインであることを直感的に感じ取っていたのではないかと思う。

木村拓哉

 木村拓哉の21世紀の代表作のひとつに数えられるだろう『マスカレード』シリーズにおいてもそれは同じだ。それは国家権力というマッチョな男性社会の中で生きてきた刑事と、ホテル従業員という、顧客を思いやり配慮する正反対の論理の中で生きてきた女性のバディ(相棒)フィルムである。

 長澤まさみ演じる山岸は、木村拓哉演じる新田刑事が振りかざそうとする「力の論理」を何度もたしなめる。このホテルの中で拳銃や手錠は物事を解決できないのだ、人を疑い、床にねじ伏せて問い詰めるのではなく、深く頭を下げて相手の声に耳を傾けなければわからないこの世の真実があるのだ、という「知の力」をヒロインが説くストーリーは、『美女と野獣』『王様と私』などの、男女の寓話を描いた過去の名作古典を思い出させる。

 そして今回の続編では、ヒロインもまた刑事から何かを学び、物語のある場面で、顧客の求めるサービスに対し深く静かな拒絶の言葉を口にする。