大滝詠一の『君は天然色』、松田聖子の『白いパラソル』、矢沢永吉の『安物の時計』……。日本ポップス史に燦然と輝く名曲の数々を送り出してきた作詞家、松本隆氏。彼は作詞活動において、一体どのような考えを持ち、作品を生み出してきたのだろうか。
ここでは、藤田久美子氏が作詞家としてデビュー50余年を数える松本隆氏の“言葉”をテーマに執筆した著書『松本隆のことばの力』(集英社インターナショナル)の一部を抜粋。創作の秘密に迫る。(全2回の2回目/前編を読む)
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98パーセントのウソに2パーセントのほんと
詞は胸を開けて心の中身を見せるようなものだから、詞を書くのはとても恥ずかしいという気持ちがずっとあった。だからと言って、自分を全部見せるわけではない。100パーセントの想像では歌詞にならないのだが、98パーセントのウソに2パーセントのほんとが振りかけてあるくらいがちょうどいい。それが逆になると、日記を読まされているみたいで、聴くのがつらくなる。現実って、たいていつまらないから、歌のなかでくらい、みんなにいい思いをさせてあげたいと思って書いていた。
はっぴいえんどの松本隆と松田聖子の松本隆は別だという先入観が、とくにはっぴいえんどのファンにはあるみたいなのだが、それは間違いだと断言しよう。作詞活動30周年記念で出したCD‐BOX『風街図鑑』(1999年発売)がそれを証明している。はっぴいえんどの次に松田聖子の曲を並べても全く違和感はない。
「大滝詠一も松田聖子も同じなのか」と責められた2曲
大滝さんから、大滝詠一も松田聖子も同じなのかと責められたことがあった。『君は天然色』(曲/大滝詠一、1981年発売)と『白いパラソル』(曲/財津和夫、1981年発売)の、どちらの歌詞にもディンギーが出てくるのが気に入らなかったようだ。
渚を滑るディンギーで
手を振る君の小指から
流れ出す虹の幻で
空を染めてくれ
(『君は天然色』)