羽生を震えさせた男
最年少でのタイトル挑戦は、屋敷と藤井の他に、加藤九段と渡辺名人が実現している。加藤が初めてタイトル戦の舞台に立ったのは1960年の第19期名人戦で、大山康晴名人に挑戦した。20歳3ヵ月での名人戦登場は史上最年少記録であり、これは藤井をもってしても更新できない。また62年の王将戦でも大山に挑戦しているが、最年少時代にタイトル戦へ2回出たのも屋敷、藤井、加藤だけである(なお屋敷は4回で、これが最多)。
渡辺のタイトル初挑戦は2003年の王座戦。当時王座戦を11連覇していた羽生王座への挑戦だった。五番勝負の第3局を終えた時点で2勝1敗と羽生を追い詰めたが、そこから羽生が底力を見せて惜しくもタイトル奪取はならず。最終第5局で羽生が勝ちを決める着手を指す時に手が震えたことから、渡辺は「羽生を震えさせた男」とも言われた。その後、羽生は王座戦の連覇記録を19まで伸ばすが、20連覇を阻止したのが渡辺である。
「自分も少しでも追いつければ」
一般棋戦での優勝達成者は、加藤九段(55年度の六、五、四段戦)、米長邦雄永世棋聖(64年度の古豪新鋭戦)、谷川九段(78年度の若獅子戦)、塚田泰明九段(83年度の早指し新鋭戦)、森内九段(87年度の新人王戦)、屋敷九段(91年のオールスター勝ち抜き戦)、糸谷哲郎八段(06年度の新人王戦)、藤井竜王(17年度の朝日杯)、伊藤四段(21年度の新人王戦)となる。
こうみると、藤井竜王の将来の好敵手として、やはり伊藤四段に期待したくなる。新人王戦で優勝した直後の共同インタビューでは「やはり同い年の藤井さんの活躍はいつも刺激になっています。タイトル戦で戦いたいという気持ちはありますが、実力差があるので棋譜を見て勉強させていただいている状況で、自分も少しでも追いつければと思っています。藤井さんが活躍されているので、自分ももっと勉強しなければならないという気持ちになります」と語っている。
新人王戦決勝を戦った古賀悠聖四段、加古川青流戦で優勝した服部慎一郎四段など、近い世代に好敵手は多く、お互いに刺激し合って、藤井竜王に挑んでもらいたいと思う。