商品開発では「神は細部に宿る」
米セブン-イレブンの成長は、タバコやガソリンの売上に頼ることなく、クオリティ重視の商品、しかも日本で私たちがやってきたような食品によって支えられています。この商品開発の源流はほかならぬ日本。日本で培われたビジネス手法がアメリカで生かされているのです。
セブン-イレブンの強みは、わらべや日洋さんや武蔵野さんなどの中食メーカーとの50年近くにわたる食品開発の歴史にあります。時代や季節の変化にあわせ、毎週、新商品の開発会議をして研究を重ねてきたからこそ業界を牽引してこられたのだと自負しています。
私は商品開発畑を歩み、自主企画ブランド「セブンプレミアム」の立ち上げなどに関わってきました。
商品開発で学んだ大事なことは「神は細部に宿る」ということ。どうやったら美味しくなるのか、原材料をどうやって安定的に手に入れるのか、それを良い品質のまま店舗までどう運ぶのか……どこかで手を抜いた途端、その商品は失敗します。
美味しさを追求する上で大切なのがベンチマーク(指標)の設定です。開発には様々な会社の大勢の人間が関わり、生産する量も大量ですから感覚を頼りにしては伝わらない。定量的にあらゆる製造工程を数値化することがとても重要です。
例えば、お弁当のカレーの開発では、東京會舘の中川三郎調理長に大変お世話になりました。中川さんいわく「カレーの基本はたまねぎ」。たまねぎを最初の重量から40%になるまで炒めれば必ず美味しくなるというのです。
しかし、レストランとコンビニでは作る量が桁違いなので頭を抱えました。それまでは蒸気釜で炒めていましたが、これでは火力が弱い。大量のたまねぎを炒めるまでに時間がかかりすぎて腕が鉛になってしまう。そこで火力の強いガスの直火釜を導入するなど調理設備を一新。さらに分業体制にして、直火釜で集中調理し一定程度炒め、いったん凍結させた後にそれを工場で再度炒めることで40%を実現しました。みんなで苦心して製法を編み出したことは忘れがたい経験です。
試作品を食べた我が家の子供たちから「すごく美味しい」と言ってもらえたことは嬉しくて今でもよく覚えています。ただ、返す返すもマズかったと思うのは「ママのカレーとどっちが美味しい?」と聞いたこと。あれは大失敗でした(苦笑)。
◇
井阪隆一氏「セブン-イレブン 2兆円の大勝負」全文は、文藝春秋「2021年12月号」と「文藝春秋 電子版」にてお読みいただけます。
セブン-イレブン 2兆円の大勝負