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濃度を上げればすごく高価な薬になってしまう

 通常、薬の投与量は、患者さんの体重あるいは体表面積当たりで決まり、身体の大きな人には多めに、身体の小さな人には少なめに投与されますが、G47Δは患者さんの身体の大きさに関係なく、1回当たりの投与量は「10億個」でよいと私は考えています。それは、一つには、この量が「最大耐用量」ではないからです。抗がん剤の開発では、一般的に、それ以上多くすると重大な副作用がでるぎりぎりの量、すなわち最大耐用量を臨床試験で決定し、その量を投与量とします。それは、多くの場合、抗がん剤がそのようなぎりぎりの量でないと効果を示さないからです。しかし、G47Δは、必ずしも投与量に治療効果が比例しないことがわかったために「10億個」を投与量とした経緯があり、本来は、もっとずっと多い量を投与できる可能性があります。

 高い技術力を要するウイルス療法薬の製造には、それなりのコストがかかり、濃度を上げれば上げるほど、実用化するときにものすごく高価な薬になってしまいます。日本では国民皆保険制度があるとは言え、患者さんがお金を払えないような価格になれば、G47Δの普及は難しくなってしまいます。

 この量にしたのは、G47Δが実用化されたとき、技術的にも経済的にも無理なく製造できる濃度だからなのです。

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(※1)独立データモニタリング委員会:臨床試験において治験依頼者、治験責任医師及び治験調整医師から独立し、評価に必要とされる専門性を有する委員から構成される。実施中の試験の中間データについて中立的かつ客観的な評価を行なう。被験者の安全性の確保や、治験実施の倫理的・科学的妥当性確保のために治験依頼者に対して助言・勧告を行なう組織。

症状の進行がないまま11年以上生きている患者さん

 臨床試験を受けた患者さんのなかには、症状の進行がないまま11年以上生きている患者さんもいます。信州在住のFさん(60代・女性)です。

 Fさんは、FIH試験の二度目の応募で被験者になりました。最初の応募のときは、適格基準に合っているかどうかの診察の結果、「まだ他の治療ができます。もう一度手術を受けるほうがいいでしょう」と判断され、この臨床試験の対象にはなりませんでした。

 Fさんは地元に戻って手術を受けましたが、その後、膠芽腫を再々発し、「今度は対象になりますか?」と、ご主人から再度の問い合わせがありました。

 Fさんが最初に応募してきたときの条件のひとつは「介助なしに生活できる状態」だったため、適格基準を満たしているかを見る診察では、「歩いてみてください」とお願いしました。介助なしに生活できる状態(たとえば、入院中に自分でトイレに行ける、治療後の経過観察や検査の際に外来に通って来られる)かどうかを診察室で調べるには、自力で歩けるかどうかを見るのがいちばん手っ取り早い方法だからです。