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——詳しく教えてください。

佐々木 私は捜査一課で10年間殺人事件の捜査をしましたが、人を殺すというのは強い決意がなければできず、一般的に人に対して危害を与える犯罪は、最初は文句を言ったりするような、徐々に感情的になって犯行に及ぶというステップがあるのです。非行の場合もそうで、未成年のタバコから始まって、窃盗、恐喝、強盗、そして殺人に至るという「エスカレーター式」が一般的でした。でも今は、すべてのステップを飛ばして、前科のない子供が突然「殺す」という選択肢にたどり着いてしまうんです。これが「いきなりやる」です。

©今井知佑/文藝春秋

——では「やると決めたら最後までやる」というのはどういうことでしょうか。

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佐々木 「無敵の人」に近いイメージです。無差別事件などを起こした社会的に失うものがない人のことを「無敵の人」と表現することがありますが、私は「無敵」というのは「警察に捕まることを恐れていない、もしくは想像できていない人」だと捉えています。捕まるリスクを無視して最後まで目的を達することだけを考えている相手には、厳罰も防犯カメラも効きません。それが「無敵」なんです。

京王線無差別刺傷事件で逮捕された服部恭太容疑者 ©文藝春秋 撮影・宮崎慎之輔

動機を理解することが難しい事件

——無差別事件では「誰でもよかった」「死刑になりたかった」という動機をよく聞くようになりました。

佐々木 今の事件は、動機が一般的に理解できない犯罪が増えている印象があります。通常の感覚では動機になりえないようなことが大きな事件のきっかけになってしまう、ということです。小田急線の容疑者は「幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思うようになった」、京王線の容疑者は「仕事や友人関係がうまくいかず死刑になるために事件を起こした」と動機を語っているようですが、この動機を正しく理解することは極めて難しい。

——佐々木さんが現役警察官だった時にもそういう犯罪者はいたのですか?

佐々木 僕が初めて取り調べにあたった殺人事件の被疑者がまさにそのタイプでした。母親を殺害した23歳の男性で、取り調べの前に刑事の先輩から「母親を殺すということはかなりの恨みがある。母親との関係に深い闇があるはずだから動機はしっかり20枚くらい調書を取れ」と言われたんです。しかし、話を聞いても全く理解できるものではありませんでした。