1ページ目から読む
2/3ページ目

漫然と素振りするより目的を持ってデータを見た方が上手くなれる

 どれだけ野球が発達しようと、打者の心理を利用した配球は、いまだに有効だという。

 考えることで、野村野球は新しい発想法を生み出したが、現代のデータ、映像を駆使した相手のスカウティング(偵察・研究)を加味することで、野村野球はバージョンアップが可能になっていると高津監督は語る。

「いまのプロ野球界は、数字であったり、映像であったり、欲しい情報があふれてます。でも、それを扱うのはあくまで人間であり、考えないことにはデータも使いこなせません。環境の変化に合わせ、指導者の発想も変えていかなければならない部分があります」

ADVERTISEMENT

©杉山拓也/文藝春秋

 高津監督は、グラウンドだけが上達の近道ではないという。

「打者であれば、バットを振って上手くなることは絶対ある。投手であれば、新しい変化球をマスターしようとすれば、実際に投げて試行錯誤しなければ自分の武器には出来ない。でも、現代の野球では映像を見て、あるいは数字を読みこむことで上達できることもたくさんあると思います。これは極端な話だけれど、漫然と素振りをしているよりも、目的を持ってデータを見ていた方が上手くなれることも絶対にあると思う」

数字や、配球のチャートを見たりするのがすごく楽しい

 監督自身、こうした発想に至ったことに驚いている。現役時代は、野村ID野球を仕込まれていたとはいえ、「投げてなんぼ、走ってなんぼ」の世界を生き抜いてきたからだ。ところが、いまは野球の見方、楽しみ方が変わってきたという。

「プロ野球であっても、監督が楽しまないと雰囲気を作れないというのはお話ししましたけど、いまは数字や、配球のチャートを見たりするのがすごく楽しい。数字から浮かんでくる仮説があって、それをビデオで照らし合わせながら確認するんです。

 たとえば、試合が終わってから先発投手のチャートを見ながら配球を振り返りますが、そうすると、『あれ?』と思うところが出てくる。その部分を映像で確認すると、捕手のサインに首を振ったり、プレートを外して間合いを取っていたことが分かるんです。ああ、投げにくかったんだな、と」

©杉山拓也/文藝春秋

 つまり、データと映像を組み合わせることで、投手の心理状態までが浮かび上がる。

 現代の分析技術は、発見の宝庫だと高津監督はいう。奥川恭伸のような若手の投手に対しては、分析から導き出されたアドバイスがたくさん出てくる。

 ところが、高津監督は選手にそうした発見を伝えない。

「僕はね、野球が楽しいから調べてるだけなの(笑)。同じことを投手コーチもやっていて、先発の翌日には選手と一緒にモニターの前に座って、細かいところを話し合いながらレビューをする。つまり、技術的なことはコーチにお任せ。監督はそこまで口を出す必要はないと思っています。僕の仕事は、どんなことが起きたのか大枠を理解して、次の試合の采配に生かしていくことです」