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期せずして3人の巨匠が同じ映画を撮っている

押井 今回『宇宙戦争』を選んだ理由はいくつかあって。第一の理由としてスタジオジブリの鈴木敏夫に言われて「なるほどな」と納得したことがある。日本での公開は2004年だったけど、宮さん(宮崎駿)の『ハウルの動く城』と、僕の『イノセンス』とスピルバーグの『宇宙戦争』がほぼ同時期に出揃って、そのことを鈴木敏夫が「期せずにして3人の巨匠が同じ映画を撮っている」と評したんだよね。

――3人の巨匠が!

押井「巨匠」なんて言葉は皮肉で言っているだけなんだけどさ。3人とも「家族を描いている」と言うんだよね。宮さんの『ハウル』は「みんなを家族にしてしまえ」という映画だと。まあ、そうだよね。僕の『イノセンス』は「人形も犬も家族である」と。逆に言うと「人間の家族なんて要らないんだ」ということを謳う映画であると。「対照的な映画ですね」ってさ。

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 そのうえでスピルバーグの『宇宙戦争』は、「こんな情けないヒーローの映画をひさしぶりに見ましたよ」って。この映画の主人公は家族のことしか考えていない。アメリカのために、とか、人類のためにとか、大テーマを掲げていない。家族をいかにして救うかしか考えていない男の映画である、と。

 鈴木敏夫は「トム・クルーズなのに情けない。こんなアメリカのヒーローは初めて見ましたよ」と言うわけだ。たしかに、この映画の主人公は家族のことしか考えていない。しかもご丁寧に娘を元奥さんのところまで届けてさ、すると死んだはずの息子も生きている。

――息子が先回りしている。

押井「あれぇ~?」ってなるよね。中盤でもう一生会えないって話をして別れたんじゃなかったっけ?「むちゃだろ!」とツッコまずにはいられない。なおかつ、元奥さんとよりを戻すでもない。息子と抱き合うだけで終わり。序盤で、息子にハグを拒絶されていたからさ、息子との関係がちょっとだけ修復しましたってさ。それで主人公は「じゃ!」とか言って帰るんだぜ。玄関先で「じゃ!」じゃねえだろう。ここまで死ぬ思いをして送り届けたのにさ、元奥さんも元奥さんだよ。上がってお茶でも飲んでいけって話じゃない?

『押井守の映画50年50本』(立東舎)

――元奥さんの実家だから、気まずいんじゃないですか?

押井 向こうの実家だからってさ、じいさんばあさんもどうかしているよ。孫娘を無事に送り届けたんだからさ。いちおう戦闘は終わりかけているとはいえ、「じゃ!」で元亭主を宇宙人がいる戦場に帰すのかよ。ここまでトンデモない映画だとは思わなかった。鈴木敏夫も「傑作ですね」と言っているわけではなくて、「3人の監督が同時に家族を描いているから面白いですね」と言っただけなんだけどさ。

「スピルバーグって、家族とうまくいってないのかな?」

――スピルバーグは『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989)も父子の話でしたね。

押井 スピルバーグは家族帝国主義ではあるんだよ。『未知との遭遇』(1977)も言ってしまえば、家族の話だよね。UFOを見たせいで人生がおかしくなってしまった父ちゃんが、家中めちゃくちゃにして、大きな山の模型を作り出してさ。『未知との遭遇』のUFOを映画に置き換えたら、スピルバーグそのものだから。「映画のせいで人生がおかしくなっちゃったけど、奥さんのことも大好きだし、家族のことも大好きで、家のなかにいるのが大好きだ」ってさ。

 スピルバーグは撮影が終わったらすっ飛んで家に帰るらしいからね。家族が大好きな人なんだよ。『未知との遭遇』は、息子のほうも最後までノリノリでしょ? いちおうハッピーな家族になっている。だけど『宇宙戦争』は主人公が家族から嫌われている。いつもとちがうんだよね。この映画を見ながら「あれ、どうしたんだろう?スピルバーグって、家族とうまくいってないのかな?」ということまで気にしちゃったよ。