近日、講談社『現代ビジネス』上で発表されて大いに話題となった藤田祥平さんのウェブ記事「日本が中国に完敗した今、26歳の私が全てのオッサンに言いたいこと」。この記事を肴に、中国ライターの安田峰俊と中国ITライターの山谷剛史が引き続き語る(前編より続く)。
ネトゲ廃人に希望はあるのか
山谷 ところで藤田さんの記事には、深センのネトゲ廃人村「三和」の話が出てきます。これって明らかに、安田さんが今年の夏ごろに現地取材して、SAPIOとか文春オンラインでバリバリ書いていた内容の後追いだと思うんですが、ソースへの言及が全然ないですよね。藤田さんの独自取材みたいに読めてしまう。たとえばこういう部分です。
>たとえば私は、三和地区という深センのスラム街に分け入った。ネットカフェで3日間ゲームをやり、1日だけ肉体労働をして暮らす「廃人」たちに、取材をするためだ。
>その地区に降り立ったとき、「人力資源市場」という看板が掲げられた、薄汚い建物の前に労働者たちがたむろしており、陽によく焼けた肌を晒した筋骨隆々の男たちが、私にあきらかな敵意の視線を向けていた。そして、私は彼らに声をかけ、カメラを向けた。驚くべきことに、取材はうまくいった。
>それどころか、おもに農村出身の彼らが国の将来に希望を抱いていること、まじめに働けばひとかどの生活ができるようになると考えていること、ゲームやアニメといった日本の文化的コンテンツに尊敬の念を抱いていることが知れた。
>ただ、そもそもこんな突撃取材ができるのは、私が20代で、失うものが少ないからだ。もしも私に子供がいれば、あんな街に入る仕事など断っていた。
安田 ですね。僕が三和について過去に書いたのは、文春オンラインだと「中国版の「ドヤ街」はネトゲ廃人の巣窟? 三和ゴッドの暮らしを追う」、「中国「ネトゲ廃人村」元住民が語る“本物のクズ”の生活」、「「ストレスはゼロだった」中国ネトゲ廃人の帝王が語る無責任生活」の3本です。
最近、当時取材して仲良くなったネトゲ廃人の一人から「日本でeゲームのコーチになって食っていきたいんだが仕事先を紹介してくれ」と微信で連絡がありましたが、「日本語できなきゃムリだろ」と返信しました。
山谷 実は僕も、安田さんの三和取材のときに途中まで一緒にいたわけです。僕らが会った農村出身の三和ゴッドって、希望にあふれていると思いました?
安田 希望ゼロですね。あと、彼らって子どもの頃に留守児童(両親が出稼ぎ者で故郷の親族に預けられて育った孤独な子ども)が多い。
山谷 そうでしたよね。僕の家がある雲南省や隣の貴州省の農村部でも留守児童問題は深刻ですよ。暖を取るために屋外のゴミ箱のなかに留守児童5人がみんなで入って寝て、一酸化炭素中毒で死んじゃったり。中国の社会問題の負の面が極まれりというか。
崩壊家庭で育ち、ネトゲや風俗に極端に依存する
安田 三和ゴッドは事実上の崩壊家庭で育った人が多くて、情緒的な面でのケアを受けたり悪いことを叱られたりせず、大人の人生のビジョンみたいなのをまったく見ずに育っているんですよ。だから、計画性を持つ習慣がなくて目の前の欲望に流されちゃって、ネトゲやバクチや風俗に極端に依存する。西村賢太さんの小説のサイバー版みたいな人たちです。
山谷 救いなかったですよねえ……。明らかに発達障害なんかを抱えていそうな人も多かったよなあ。弱者への適切なケアがない社会だからなあ。
安田 本人たちの深い事情を聞くほど、心のなかに虚無と絶望が伝わってきて重かったですよね。日本のニートやネトゲ廃人とは、また別のベクトルに突き抜けた闇があって。