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「ゴリゴリの芸人観を捨てたのが10年前」プチ鹿島が“専門家じゃない人問題”に対抗するための時事ネタの扱い方

プチ鹿島さんインタビュー #2

2022/04/30
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鹿島 僕は昔から選挙特番が大好きで、当選したての田中眞紀子さんが登場した『ニュースステーション』特番なんか最高でしたね。大学の演劇サークルで一緒だった久米宏さんとの丁々発止がすごかった。そこにプロ野球の阪神巨人戦情報が入ってきて、横には田原総一朗さんがいて……というゴチャマゼの面白さ。あれはフジテレビの24時間テレビ『1億人のテレビ夢列島』で初めてBIG3のたけしさん、さんまさん、タモリさんが一堂に会した、生放送ならではの「事件」に遭遇した興奮に似ていましたね。会っちゃいけない人同士が会っちゃってるところを目撃する興奮。

 

――まさに大島新監督の『香川1区』では、大島監督と平井卓也議員が議員会館で面と向かう場面があったわけですが。

鹿島 大島さんという人はとんでもない興行師ですよね。マッチメイクが上手い。長野で監督と対談したんですけど、楽屋で話していたら大島さんもプロレスが好きらしいんですよ。それで僕は納得しましたね、『香川1区』という作品は前作『なぜ君』の決着編という興行なんだと。いかにファンが喜んでくれるか、お客さんに楽しんでもらうか、映画館に足を運んでもらうかという部分もきちんと念頭に考えている大島さんはとても健全だと思いました。

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――政治がテーマではありながら、重々しさや生真面目さとは違ったエンタメ要素が入っている。

鹿島 ドキュメンタリーだからといってそれが「事実や真実を追及するもの」と思われるのをどこか恥ずかしがっている感じがしますよね。大島さん自身が映画の中に登場しているのも「この映画はあくまで私の解釈なんですよ」と観客に伝えようとしているからじゃないでしょうか。僕の新聞読み比べコラムも、あくまで個人の見解ですという体裁は崩さないようにしていますから、大島さんと共振するところが結構あります。

「逃げないでください!」首相会見で食い下がる理由

――これはあくまで自分の見解である、とはっきりと示しているのは、新聞で言えば署名記事になりますよね。鹿島さんは朝日新聞を「高級な背広を着たプライドの高いおじさん」、産経新聞を「いつも小言を言っている和服を着たおじさん」というふうに新聞をキャラ化していますが、記者個人個人についてはどうですか? キャラ立ちして行ったほうがいいのか、それともいわゆる客観報道に徹したほうがいいのか。

 

鹿島 首相会見があるごとに、どの新聞社の誰がどんな質問をしたかでSNSが盛り上がりやすくなってきました。つまり、記者個人の質問力がオープンに問われる時代になってきたわけです。記者の中にはそれをヒシヒシと感じている方もいて、2020年の8月に行われた安倍首相の囲み取材で「逃げないでください!」と食い下がった毎日新聞の宮原健太記者は、そこまでして頑張った理由を、報道陣は会見での「追及が甘い」という多くの指摘を受け止めたからと語っています。

 こうやって、記者自身がどんなことを考えて取材しているのか、失敗や反省そのものもオープンにしながら、それを踏まえて今度はこうやってみた、と取材過程そのものを見せていく報道というのは、もっと出てきていいんじゃないかと思います。そのほうが記者のみなさんの個性が発揮されていくと思いますし。

――東京五輪のスポーツ紙報道には、記者の声がかなりリアルに書かれていたものがあったそうですね。