「エラい人が残さないなら芸人なりにこの国の有様を残しておく」。コロナ、オリンピック、岸田政権……新聞読み比べコラムをまとめた近著『お笑い公文書2022』でこう宣言した時事芸人のプチ鹿島さん(51)。「ゴリゴリの芸人観を捨てたのが10年くらい前のこと」という鹿島さんが、「専門家じゃない人問題」への考え、新聞やメディア、そして読者のアップデート論を語る。(全2回の2回目。#1から続く)
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四国新聞の記者に直撃取材
――新刊にも収録されている昨年の衆院選「香川1区」ルポは、文春オンラインで発表された際にも大きな反響があったそうですね。これまでは新聞の「読み比べ」によって政局のキナ臭さや、政治家像を立体的に「ネタ」にするコラムが主でしたが、実際に現地に足を運ぶというのは新機軸でした。
鹿島 香川1区は大島新監督の『なぜ君は総理大臣になれないのか』で注目された立憲民主党の小川淳也氏と、四国全域をカバーする「四国新聞」オーナー一族の平井卓也元デジタル担当大臣がぶつかる選挙区で、さぞかし盛り上がるだろうと注目していたんです。そして何より、四国新聞の「平井推し」の偏向っぷりがすごくて、いったい四国新聞ってどんな取材をしているんだというのも、新聞好きとしては気になってました。
それでYouTubeでの配信を一緒にやってるラッパーのダースレイダーと一緒に高松入りして、開票日には四国新聞の記者に直撃取材をしてみたり、その流れで本社を訪問してみたり質問状を送ってみたりと、かなり動いてみた甲斐もあって取れ高は大きかったですね(笑)。
――小川事務所で四国新聞記者を見つけたので鹿島さんが話しかけると、記者は逃げてしまう。それで追いかける鹿島さんと逃げる記者とで事務所をグルっと一周してしまったり。
鹿島 新聞愛あってこその「四国新聞取材」だったと思います。僕は芸人だから、こうした「由々しき問題」をいかにネタに調理して笑い飛ばすか考えなきゃならないと思っています。ただ、一方で笑い飛ばさずに残しておくべき事実は僕なりに書き残しておこうという気持ちも出てきたんです。新刊のタイトルに「公文書」って入れたのもその現れなんですけど、ここ数年、安倍・菅政権では笑い飛ばしたいけど看過できない問題が多発しましたよね。桜を見る会にしても、財務省の公文書改竄にしても、芸人としての僕がジレンマに陥るような、笑うに笑えない出来事でしたね。
――芸人でありながら、真面目なことを言っとかなきゃと思うジレンマ。
鹿島 そうですね。ジレンマは感じているんですけど、そこは人よりも新聞をじっくり読み比べして、記者の皆さんが取材して明らかにした事実をベースにし、各紙の論調を整理しながら僕なりに伝えるべきことを楽しく発信しているという自負にもつながっています。これは最近よく言われる「専門家じゃない人問題」に対抗する、自分なりのポジションでもあると思ってます。
「専門家じゃない人問題」にどう対抗するか
――専門家じゃない人問題、ですか?
鹿島 たとえばウクライナ危機に関して、情報番組に出演している芸人コメンテーターが自分の主観やセンスだけで何かを述べていると、「なんでこの人が発言しているの?」という違和感についてSNSで言われますよね。
これはそもそも、オウム事件のときにワイドショーに弁護士が出演し、関係ない芸能ニュースにもコメントしはじめたあたりからの流れです。別に芸人コメンテーターが増えるのはいいと思ってます。ただ、事実に基づいた感想なりコメントではなくて、主観やセンスだけが優先された発言がテレビで求められると確かに厄介だと思うんです。視聴者のほうにも「この人ならどう言う?」みたいな、のぞき見的な風潮が出てきちゃうのでしょうね。仕方ないですけどね。
――鹿島さんの場合はベースにある新聞報道をもとに「これってあり得ないですよね」「なんかおかしくないですか?」「出ましたいつものこの論調」という笑いに持っていく。
鹿島 話題にするにあたっては、事実をベースにするのが大前提です。見てる人も安心すると思うから。