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「初めて見たらぎょっとしますよね」住宅街を歩くと頭上に藁人形が何体も…… 木更津に残る奇妙な“風習”を追う

 東京湾アクアラインを渡って千葉県木更津市に入り、車を走らせること数分。三井アウトレットパークからほど近い閑静な中島の住宅街に入ると、視界の上部に“藁人形”が現れる。

 瓦葺きの家が並ぶ道路をまたぐように糸状のものが張られ、そこに藁人形がぶら下がって揺れている。高さは地上4メートルほどで、道路脇の民家の2階とほぼ同じ。歩行者に当たることはないが、トラックなどが通る時はかなりギリギリだ。

 藁人形は両手を広げ、顔は描かれていない。形も不揃いで手作りのように見える。この藁人形は一体何なのだろうか。

風に揺られる藁人形 ©文藝春秋

 道行く人に声をかけても、藁人形についての詳細はなかなか集まらない。

「よく分からないので他の人に聞いてください」

「初めて見たらぎょっとしますよね。もう慣れましたけど」

 平日の昼間ということもあり人通りは少なく、その人々も藁人形を見上げる様子はない。その日はどんよりとした曇り空で、東京湾からの強い海風が吹き付けるなか、藁人形は風に揺られ続けていた。

「あぁ、あれは『辻切り』ですよ」

 藁人形の名前が判明したのは、6人めに声をかけた地元に住む60代の男性によってだった。

「あぁ、あれは『辻切り』ですよ」

 「辻切り」という聞き慣れない名前に怪訝な表情が浮かんだのを見て取ったのか、男性は続けてこう説明した。

「『辻切り』はいわば厄除けです。私は生まれた時から木更津に住んでいますが、子供の頃にもありました。『なんでぶらさがっているんだろう』と不思議に思い、石をぶつけて遊んだこともあります。幸いバチはあたりませんでしたけどね(笑)。昔は地面に竹を立てて綱を張り、そこに藁人形をぶら下げていましたが、今は電柱に竹を縛って、そこから綱を張っています」

藁人形の右隣にはタコの形をした人形や絵馬も ©文藝春秋

 たしかによく見ると、糸は電柱からではなく、電柱に縛り付けられた竹から張られている。藁人形は地区の境目に吊るされるそうで、「辻」を切って悪いものの侵入を防ぐということのようだ。

 しかし藁人形と言うと呪いのイメージも強く、夜に見れば相当に不気味なことも確かである。住民たちも「古い風習なのは知っているけれど、そういえば詳しいことはよくわからない」という人が多かった。

 さらに聞き込みを続ける中で「詳しい人がいる」という話を聞き、案内された家へ向かうと、メガネをかけた優しそうな雰囲気の男性が姿を現した。