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「都心最後の一等地」明治神宮外苑、再開発の背後でうごめく“あの男”…「東京五輪の影」を感じてしまうわけ

2022/05/18
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《ビジネス最優先、防災軽視、歴史無視の〈古い資本主義〉であり、公共緑地をあえて創った外苑整備の精神を著しく踏み外している。》

 この事実を突き止めたのは都市環境計画の権威、石川幹子・中央大学研究開発機構教授だった。石川氏は再開発計画を進める事業者が都に提出した資料と空撮写真を突き合わせ、地上を歩いて木を1本ずつ調べて数えあげた。そうして1000本の樹木が伐採されることが明らかになったのだ。

 計画の詳細が都民に示されたのは「昨年の12月14日」。縦覧期間はたったの「2週間」。まるで情報共有を避けられていたようにもみえる。外苑を知り抜く石川氏だからこそ、こんな短期間でも問題点を洗い出せたのだろう。

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 それにしても、ギョッとする話である。もっと話題になっていいはずだ。

 すると翌日、東京新聞が一面トップで報道。

『歴史の緑 1000本風前 神宮外苑 再開発の伐採計画判明』(2月8日)

 やっぱり驚く話だよねぇと思っていたら、翌日の2月9日に再開発の計画案が東京都都市計画審議会で賛成多数で承認。

『神宮外苑 再開発を承認 100年の森 900本近く伐採へ』(東京新聞・2月10日)

 この記事で注目したのは、今回の再開発により「高層計画 次々」という部分。そうか、やはりここに行き着くのか。

緑豊かな明治神宮周辺 ©iStock.com

規制緩和の鍵は、東京五輪?

 今から3年前、朝日新聞も報じていた。

『神宮外苑 高層化なし崩し』(2019年7月25日)

 スクープというより「東京五輪まであと1年」的な記事だったが、大事なことがたくさん書いてあった。抜粋する。

《日本初の風致地区(※)に指定された明治神宮外苑地区(東京都港区、新宿区、渋谷区)。「都心最後の一等地」と言われた一帯でいま、高層ビルが「雨後のタケノコ」のように生まれている。

 地区の景観を半世紀ほど守ってきた建築物の高さ制限が緩和されたためだ。この2年間に着工したり、完成したりした50メートル超のビルは4棟。2020年東京五輪後には、さらに200メートルに迫るビル2棟も建つ計画だ。

 呼び水になったのが、20年大会の招致だった。》

※筆者注 風致地区=良好な自然的景観を保持するため、都市計画法で指定される地域。

 キーワードは「高さ制限」である。明治神宮外苑は「風致地区」に指定されており、「15メートル」を超える建物を建てることができなかった。

 ところが東京五輪招致に向け、国立競技場を運営する日本スポーツ振興センター(JSC)が動いた。まず2012年に新国立競技場のデザインとして、英国の建築家ザハ・ハディドによる案が採用される。ザハ案の高さは「75メートル」で、案の定、周囲の景観を損なうなどと問題化。しかしその翌年、一部の建物の高さ制限が「80メートル」に引き上げられたのである。

 これは何を意味するか? つまり新国立競技場だけでなく、その周囲にも高層ビルを建ててもオッケーということになる。