1ページ目から読む
2/3ページ目

 2つのエラーをした準決勝の韓国戦の後、誰も僕を責めなかった。「お前のせいじゃない」と言ってくれた。「申し訳ない、情けない」という思いで部屋に閉じこもりました。

 気持ちの切り替えができないまま、米国との3位決定戦でまたエラー。夜、誰とも話したくなくて。唯一妻と電話で話しました。「死にたい」と……。

 あの失敗から12年間、話題にできなかった。引きずりました。

ADVERTISEMENT

野村が亡くなる10日ほど前、偶然の再会が人生を変えた

 野村さんが亡くなる10日ほど前に、テレビ番組(「爆報!THEフライデー」)のインタビューで千葉県の野球グラウンドへ行ったら、ベンチに誰かが座っている。野村さんでした。見た瞬間、号泣ですよ。言葉が出なかったです。そして言われたんです。

「いいか、おまえはエラーをしたけど、北京オリンピックと言えば、人が思い出すのは星野とおまえのことだけや。人の記憶に残るというのは、すごいこと。誰にだってできることじゃない。それが、どれだけ難しくて素晴らしいことか、おまえ、分かるか? くよくよすんな」

 目が覚めた思いがしました。野村さんの言葉をきっかけに、「隠すことはないんだ」と視点が180度変わったんです。

野村克也氏 ©文藝春秋

 それを機に、YouTubeやツイッターなどSNSを始めました。最初に投稿したのは、ジャムを塗ったパンを床に落としてショックを受けている表情という画像でした。“パンを落とす”が、“落球”につながる。バズりました。「落とし癖があるな」と笑いになった。

 この反応に驚きました。これまで、失敗を笑いに変えたり、持ちネタにするなんて、やってはいけないことだと思っていたから。それが、自分の失敗をSNSで発信することで「勇気をもらえた」と反応があった。「自分の失敗が誰かを勇気づけることに繋がるんだ」と初めて知りました。

 いま、野球教室で中学生に伝えているのは、「ミスをしたら、まず自分を許そう」ということです。

G・G・佐藤氏と飯田絵美氏

過去は変えられる

 過去の失敗と向き合うこと。どう捉えるか次第で、過去の出来事が別の景色に見える。過去は変えられるんです。

〈誹謗中傷への心のケア〉〈失敗を恐れずに挑戦する〉。この2つは、僕の人生の大切なコンセプトになりました。

 SNS上では、「自分の視点は神の視点=正解」だと思い込み、心無い言葉を吐く人もいる。このせいで傷ついたり、立ち直れない人がいる。自殺する人もいる。僕も「死にたい」と思い詰めたことがあるから、気持ちは痛いほど分かる。仕事をしながら、人の心をケアする活動もしていきたいと考えています。