「全体で見ればたくさん人はいるんですが、ご利用の少ないローカル線だけを切り出せば、数名だけで保守しているというところもあるんです。それは、中小事業者とは基本的には変わりません。
たとえば、線路を補修する専用の車両を導入すると億単位で、ご利用の少ないローカル線では過大投資。そうなると人海戦術で保守することになるんです。だけど、それって永遠に続きますか?と。そういう悩みをみなさん抱えているんです」(井上さん)
そうした課題を乗り越えるためのカギになるのがオープンイノベーション。既存の技術を応用し、いかに鉄道の現場に活用していくのかが重要になる。その一環として、他の事業者にもJR西日本が持っている技術やサービスを提供していく、というわけだ。
「ですので、まずは悩みごとを聞いて、それを解決する手段として当社の持っている技術をそのまま使ってもらうのではなくて、どのように活かしてもらえるかを考えるようにしています」(井上さん)
ちなみに、経営難に悩む中小事業者だったらコスト削減のニーズがいちばん高いように思える。しかし、実際にはすでに限界までコスト削減をしているため、むしろ“コストがかけられなくてやりたいことができない”ケースの方が多いのだとか。
そこで、井上さんは「コストをそこまでかけなくてもここまでできますよ」という、まさに“スキマを埋める”提案をしているという。
こうしたスタンスなので、銚子電鉄に導入した情報提供端末のように、目に見える“製品”があるわけではない。各事業者の抱えている課題を解決できるアプローチ方法の提案。それこそが、井上さんの仕事のひとつなのだ。
もともとiPhoneには位置情報も加速度計も入っている
「たとえば、ですね。iPhoneには位置情報や加速度計などがもともと入っているわけです。それを使いまして、線路の状態を測定することができる。
加速度計の情報を線路の善し悪しに変換するツールを作りまして、iPhoneを持って列車に乗れば、振動と位置情報と撮影した動画をまとめて解析サーバーにアップすると、そこから線路の状態を解析したデータが送られてくる。当社ではデータサイエンスにも力を入れているので、こういったサービスを提供することもできます」(井上さん)
一般的に、線路の状態は億単位のおカネがかかる軌道検測車などによって調べられる。その導入が難しければ人が歩いて見て回る。また、車両の先頭に職員が乗り込んで目視で状態を確認することもある。
しかし、コスト面と人員の課題があるローカル線ではなかなか難しい。放置しておけば安全性にも関わるだけに、中小事業者にとっては頭が痛い問題だ。