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 だが、iPhoneさえあれば線路の状態を調べることができるとなれば話は別。コストも抑えられるし、何より誰でも簡単に手に入れることのできるデバイスを使うために新たな設備投資もほぼ不要だ。

「軌道検測車で採ってくるデータとスマホで採ったデータの間に誤差がほとんどないことは確認しています。iPhoneだから動画も撮れるので、線路の状態だけでなく架線柱の傾きだとか、そういう情報も含めて解析することも可能。普段のお客さまを乗せている営業列車の先頭にiPhoneを取り付けるだけでそれができるんです。

 また、鉄道はもちろんですが、高速道路や国道などの路面状態を調べるのにも役立ててもらえると思っています」(井上さん)

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(鉄道技術展にて)

培われた技術と「汎用性」

 ここで使っている技術は、JR西日本が社内で開発してきたデータサイエンスの技術だけ。あとはiPhoneにもともと入っているツールを活用しているにすぎない。

 鉄道の世界は長い歴史の中で、“鉄道技術”として業界内だけで使われる専門的なテクノロジーを養ってきた。裏を返せばそれらは外でも使える汎用的なものではないし、汎用性のある技術を取り入れられるようなものでもなかった。軌道検測車などはまさにその最たるものといっていい。

 汎用的な技術を用いた方がコストも安く済むし使いこなすのが簡単なのもとうぜんのこと。人手もおカネもなかなか足りないこれからの時代、そういった技術を取り入れていくことは不可欠なのだ。

鉄道技術展にて、車内異常音検知システム

「もちろん、特に安全性に直結する部分ではすべてを外からの技術でとはいきません。二重三重に安全装置を働かせることも必要です。だからぜんぶを置き換えることは難しい。ただ、最後のところは人が目で見て、ということを担保した上で、使えるものは使っていくことが大事なのではないかと思います」(井上さん)

「『なんでJRさんが?』って皆さんそういう反応です(笑)」

 こうした取組の成果のひとつが、銚子電鉄への情報提供端末の導入。このほかにも、鉄道業界のみならず、さまざまな業種で使うことのできそうな技術を次々に開発しているという。

銚子の街並み

「JR西日本です、というと『なんでJRさんが?』って皆さんそういう反応です(笑)。でも、話は聞いていただけます。電話やオンラインではなくて、基本的には直接足を運んで、対面でお話をさせていただくようにしてるんですよ。そのほうが、深いお話を聞かせてもらうことができますから」(井上さん)

 どんな技術もサービスも、やっぱり最後は“使う人”ということか。

写真=鼠入昌史

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。