こう井上さんが話す銚子電鉄に提供した情報提供端末。もちろん銚子電鉄だけでなく、JR西日本のエリア内でもローカル線の無人駅などで活用しているものだ。
「都市部の駅などで使っているような電光掲示板は公衆回線ではなく指令のシステムともつながっていて、設置するのにも補強工事が必要。それこそ億単位のコストがかかるんです。
でも、ローカル線の無人駅にはそこまでかけられないし、必要もない。お客さまが駅を利用するに当たって必要最低限の情報、遅延とか振替輸送とか、そういうものを提供するのには公衆回線を使った簡易的なものでも遜色はないですから」(井上さん)
そのため、銚子電鉄への導入にあたってもかかっているコストは設置するモニターと公衆回線に通信料程度。しばしば経営危機が伝えられる銚子電鉄のようなローカル線であっても気軽に導入でき、それでいて利用者の利便性向上につなげることができるというわけだ。
あのJRが直接営業の電話を…?
しかし、どうしてこういった営業活動を行っているのだろうか。
「コロナ禍ということで、これまでのような鉄道一本足打法だけでは辛いよね、ということがひとつあります。鉄道技術はいろいろなメーカーさんの技術を集めて使っているのですが、我々の持っている技術も外で活用できるのではないか、というのが出発点。
そこでまずは親和性の高い鉄道事業者にコンタクトをとりまして、どんなことで困っているのか、解決したい問題はどういうことか、どういった対策をしているのか、などの話を聞いて回っているんです」(井上さん)
いわゆる“同族”であるJR各社をはじめ、関西圏の大手私鉄、さらには中小私鉄へと幅を広げ、井上さんはいまや全国の鉄道会社行脚を続けている。そのひとつが、銚子電鉄だった。
「我々はメーカーではないので、『この製品、サービスを使ってください』というのではないんです。自分たちも工夫をしながらいろいろな技術を使っている。だから、まずは悩みごとを聞くことからはじめています。やはり共通している悩みごとは、人がいなくなっているということですね……」(井上さん)
人海戦術で保守を続ける日々…「それって永遠に続きますか?」
JR西日本はグループ会社を含めると従業員が4万8000人の大企業。銚子電鉄のようなローカル線と比べると人手不足で悩むこともなさそうだ。しかし、現実は違っている。