「僕は処女じゃないと嫌なんだ」
「お母さんたちは3000万~5000万という金額を提示していたと聞いています。このお兄さんではないのですが、旦那さん候補の一人はすごいロリコンで……。『市駒ちゃんって処女なんでしょ? 僕は処女じゃないと嫌なんだ。旦那さんになったら一緒に旅行しようよ』と言われ、ゾッとしました。
売れっ子の芸妓さんの場合は、純粋に応援したい気持ちから旦那さんになってお金を援助するお客様がほとんどなのですが、私の場合はそれとは違うと感じました。確かに『水揚げ』は今は行われていないかもしれませんが、旦那さんになることで処女を買えると思っているお客様がいるのも事実なのです」
話し合いの末、身受けの話はなくなったものの、舞妓を辞めることに関しては、置屋側からの「鴨川をどりまでは続けてほしい」という要望もあり、一度立ち消えた。
「じゃんけんして勝った方が、お客さんの前を洗うんやで」
「セクハラや飲酒の強要さえなければ、お座敷でいろいろなお客様とお話しすることは好きでした。それに日本舞踊やお茶のお稽古をもっと続けたい気持ちもあったので、鴨川をどりまでは頑張ろうと決めました。でも、それからたった1カ月後の3月にお茶屋さんのお母さんから『あんたこの日、空けときよしや』と言われて……」
それは、ある男性客との「お風呂入り」、つまり「混浴」の約束だったという。
「温泉という言葉を聞いた時、すぐに『それお風呂入りじゃないですよね』と尋ねたんです。そうしたら、『あんた、何当たり前のこと聞いてはんの。馴染みのお客さんやし、そんな恥ずかしくないやん』と笑い飛ばされました。
それまで私は幾度となく、お座敷でお姉さんが『お風呂入りしとおす』『温泉行きとおす』とお客様にしなだれかかる姿を見ていました。だから『お風呂入り』がお客さんとの混浴を指すことはわかっていたんです。でも、さすがに冗談であってほしいと思っていたんですが……」
未成年飲酒やセクハラは苦痛だったが、舞妓の仕事にやりがいを感じることも事実で、花街に残るか辞めるか迷ってもいた。当時の桐貴さんは温泉旅行を断ることもできず、約束の日までの数カ月は生きた心地がしなかったという。
「お座敷で芸妓のお姉さんから、『じゃんけんして勝った方が、お客さんの前をこうやって洗うんやで』って教えられました。旦那さん以外の男性客との旅行は、基本的に舞妓と芸妓が2人以上で行きます。一緒に行くことになった姉さんは年齢が近くて話のわかる方だったので、『姉さん、うちお風呂入りしたくない』と言うと、『わかった』と。露天風呂付きの豪華なお部屋に通されると、すぐにでもお風呂に入ろうとするお客様を制止し、『ご飯を食べましょう』『カラオケをしましょう』と、とにかく引き延ばして……」