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『どうせ辞めても股開いて生きていくしかないだろう』と言い放たれ

 それでもなお、客は「一緒に入る」と言い張ったという。しかし舞妓は「子どもでなくてはいけない」ため、恥ずかしがることも気持ち悪がることも許されない。「最後の手段」と、先輩舞妓が酔ったふりをして暴れ、頭をぶつけて流血するという騒動を起こし、なんとか回避した。

舞妓だった頃の桐貴さん。2015年12月、京都・南座での顔見世で

「もし一緒に行ったお姉さんが違ったら、『あんた、はよ脱ぎよし』と言われて、断れなかったと思います。今回はうまくかわせたけれど、次もうまくいくとは限らない。この一件でこれ以上、舞妓を続けるのは無理だと悟りました。置屋のお母さんには『どうせ辞めても股開いて生きていくしかないやろ』と冷たく言い放たれましたが、心は揺らぎませんでした」

 そうしてこの直後、桐貴さんはようやく花街から抜け出した。花街を出て知ったのは、自分がいた場所が「いかに特殊な世界だったか」ということだ。

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「舞妓を辞めた後、自宅に住民税の納付書が届いたんです」

「舞妓を辞めた後、自宅に住民税の納付書が届いたんです。自分に“収入”があったことや “納税”していたことを初めて知りました。どのくらいの収入があったのかわかりませんが、辞めてからの1年は1期9万円くらいの住民税を請求されました。当時は貯金もまったくなかったので、お金を工面するだけで一苦労でした。

 税務署にも行って納税額の根拠や舞妓として働いていた期間は労働していたとみなされるのかを尋ねたのですが、ちゃんと教えてもらえなくて……。

 他の町の元舞妓さんにも聞いたのですが、宮川町さん、上七軒さんのお姉さんも同じだったと。宮川町のお姉さんは、辞める時にこれまでに提出された確定申告書類と廃業届を置屋から渡され、初めて自分の収入や納税額を知ったとか。それを聞いて、もしかしたら私も勝手に確定申告を出されていたのでは、と思いました」

 住民税を請求されるということは、桐貴さんに課税される所得があったということだ。また、納付書が届くのは、会社員が給料から天引きされる形の特別徴収ではなく、普通徴収にあたる。すなわち個人事業主として確定申告が出されていたと考えられる。

 しかし桐貴さんは舞妓時代、月に5万円程度のお小遣いは渡されていたが給与は支払われなかったため、自身を労働者だとは認識していなかった。

 労働問題に詳しい渡辺輝人弁護士はこう指摘する。

「これまで置屋やお茶屋は研修の場であり、舞妓は修業の身であるという理由で労働基準法の適用外とされていました。しかし、もし本当に確定申告がなされていたのであれば、彼女たちのお酌などのサービスに対価が発生していて、所得があったということになり、いよいよ労働者性を否定するのが難しくなる。舞妓が労働者であるならば、客に深夜までお酌させるといった労働は、労働基準法の『未成年者の保護規定』に反します。未成年を深夜労働させた場合の事業者は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられます」

 京都の労働局にこのことについて尋ねたところ、以下のような回答だった。

「舞妓の労働者性については個別事案となり、様々な要素から判断されるもの。確定申告が出されていたとしても、個人事業主として業務委託を受けている可能性もあり、労働基準法が適用されない場合があるので一概には答えられない」

 だが、渡辺弁護士はこうも語るのだ。

「確かに個人事業主であれば未成年であっても労働基準法の対象外となりますが、置屋やお茶屋の指示のもと宴席でサービスを提供しているという勤務実態を考えると、舞妓は雇用主のもとで働く“労働者”にあたる可能性が高い。その場合は置屋と舞妓の間で職務内容や賃金を明文化した、適切な労働契約を結ぶ必要があります」

 桐貴さんに確認したが、舞妓になる際、労働契約は交わしていなかったという。