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「小汚い雑誌だった」…サンデー編集者から格下扱いされていた「ジャンプ」が“最強のマンガ誌”になれた理由

『「週刊少年マガジン」はどのようにマンガの歴史を築き上げてきたのか? 1959-2009』 #2

2022/08/13
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 しかし、そもそもフリーランスであるマンガ家を他誌で描かせないという契約はおかしい――。そう考える編集者やマンガ家も昔から多かった。

「あえて反論はしない。それはジャンプの方針ですから。中には専属制が合わなくて離れていったマンガ家もいます。外に出て成功した人もたくさんいる。小林よしのりさんなんかそうでしょう。『東大一直線』はそれなりにヒットしたけど、外に行ってから描いた『おぼっちゃまくん』の方が力を発揮したと思う。永井豪さんも週刊からは離れたけど、『月刊少年ジャンプ』で長く仕事をしてくれました」

ジャンプの伝統「アンケート至上主義」

「友情・努力・勝利」のキーワードとともに、「ジャンプ」といえば読者の反応を徹底的に重視する「アンケート至上主義」もよく知られる。これも初代編集長・長野規から連綿と受け継がれた“ジャンプの伝統”なのだという。

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「創刊号からアンケートハガキをとじ込みで入れてあるんです。1冊にとじ込みハガキを入れると経費が1円余分にかかるんですよ。200万部なら200万円。長野さんはそれをかたくなにつらぬいた。要するに、読者が読みたいマンガを載せるんだと。もうひとつは、マンガ家と編集者に対する競争原理の導入ですよ。なるべく多くの読者がアンケートに答えるように創刊号から懸賞アンケートにして賞品が当たるようにしています。10週やって人気が出ないものは切る、というのもかなり早い段階から決まっていました」

 人気のない作品は10週で打ち切る半面、人気があれば簡単には終わらせないのもアンケート至上主義の特徴だろう。

 例えば、本宮ひろ志の出世作『男一匹ガキ大将』には、何回か“幻の最終回”がある。

 最初は不良学生の全国制覇をかけた「富士のすそ野」編のクライマックス。敵対する堀田石松が放った竹槍が主人公・戸川万吉の腹に深々と突き刺さる。生原稿ではそこにマジックで荒々しく「完」という文字も書かれていたという。

「担当だった僕がその『完』の字をホワイトで消して無理やり続けさせた。それは事実です。『ガキ大将』の人気は絶大で、ついに『ハレンチ学園』を抜いてトップに立っていた。ここからいかようにもできる展開だし、まだまだ続けられると思いました。まあ、『ハレンチ』のピークも過ぎていて、ここで『ガキ大将』に抜けられたらまずい、という気持ちもありましたけどね……」