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AIはフレーム問題を解決できないが、人間はフレーム問題を適当に解決している

 ここで重要なことは、区別が十分に「効率的に」なされなくてはならない、ということだ。つまり、手際よく能率的にできなくてはならない。いくらでも時間をかけてもよい、というわけにはいかないのだ。

 AIには、フレーム問題が解決できない。どうやったら解決できるのか、その方針すら立たない。

 しかし、人間は、おおむねフレーム問題を適当に解決している。少なくともそのように見える。人間も失敗をすることもあるが、しかし、生活のほとんどの局面において、そのとき必要なことだけを考え、適切に行動する。

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 何か明確に定義されたひとつの領域に関することだけを実行するAIならば、作ることができる。たとえば将棋を指すだけのAIならば、簡単だ。そのようなAIには、そもそもフレーム問題は存在してはいない。

 はじめから、関係がある事項しか認知できないようになっているのだから、「関係があること/関係がないこと」を区別する必要がないのだ。

 人間が驚異的なのは、いろいろな(知的な)ことができるからだ。プロの棋士も、将棋だけを指しているわけではない。食事もするし、友達と雑談を楽しむこともあるし、歌うこともある。将棋をしているときには、将棋に集中しており、カレーライスの味のことは考えない。

 しかし、食事のときには、カレーライスと鮨のどちらが好ましいか、検討する。人間は、場面ごとに、必要なことだけを選択し、難なくフレーム問題を解決している。

 どうして人間には、それができるのか。人間自身が、その理由を理解できていない。人間は、自分がどのようにしてフレーム問題を克服しているのか、そのメカニズムを自分でも自覚できてはいない。

 そのため、当然、自分がやっていることを、AIとして、あるいはAIのプログラムとして外化することもできない。『スター・ウォーズ』では、R2D2が、人間なみの柔軟性でフレーム問題を解決しているようだが、いったい、どうやって、あんなロボットを作ることができたのか。

 映画はもちろん、そんなことを説明しない。それは、この映画の筋にとって、それこそどちらでもよいこと、イレリバントなことなのだから。

私たちはAIを信頼できるか

大澤 真幸 ,川添 愛 ,三宅 陽一郎 ,山本 貴光 ,吉川 浩満

文藝春秋

2022年9月13日 発売