『サラかん』という高井研一郎の連載漫画が、週刊現代誌上で評判を呼んだ時代がある。「カメちゃん」と呼ばれる野球ド素人のサラリーマンが、社長である安部恒夫(通称アベツネ)の鶴の一声で、傘下にあった弱小プロ野球チームの新監督に就任し、リーグ優勝を目指す。人情ギャグコメディである。
「サラリーマン監督のカメちゃんが『サラ監』なら、俺は『サラ代』だな」
2004年夏、ナベツネの異名を取る渡邉恒雄から巨人軍球団代表を命じられた私は、そうつぶやいていた。同じころ、広島カープの鈴木清明(現・球団本部長)や阪神タイガース社長の野崎勝義もサラリーマンからプロ野球の世界に飛び込み、ワンマンオーナーや古参幹部相手にもがいていた。
私の書いた『サラリーマン球団社長』は、この2人が球団を変えていく実話だが、同時にサラリーマンをめぐる波乱の転職顛末記でもある。彼らは球界で不思議な光景を見、実力社会で生き抜く言葉に出会い、自身も言葉の力に目覚めていく。
彼らが出会った言葉や苦闘の途上で思わず漏らした言葉を紹介しながら、転職が自身と組織に何をもたらしたか、改めて考えてみたい。まずは、カープ編から。(文中敬称略)(前後編の前編/後編を読む)