「私もアンドレがほしい」
三浦 すごいな、『ベルばら』! 当初、思慮が浅くて無邪気な少女だったマリーは、次第に国家のことを考え始め、最期は聖母のようでした。こうした変化はツヴァイクの伝記の中にあるんですか。それとも池田先生の創作ですか。
池田 確かに、伝記の中に彼女が人間的な成長を遂げるさまは描かれていて、そこに私も感動したのですが、彼女の運命が革命という歴史の転換期に投げ込まれたとき、「自分の名は未来永劫歴史に残るのだ」と強く意識したのではないか。それは本には書いていなかったことですが、マリーはその名前に恥じない死に方をしようと決意したのではないかと思いました。
三浦 作中の印象的なエピソードのひとつに、オスカルがロザリーに助けられたとき、食事が薄いスープだけでショックを受ける場面があります。
池田 王室の何が問題なのかをオスカルには知らせなければいけないと思い、民衆の生活を見る場面をつくりました。もっとも、マリーの浪費で財政が悪化したと思われていますが、実はルイ14世のころには過剰な宮殿の建築や戦争で経済的に傾いていたのです。
三浦 オスカルは、自分も貴族で、民衆の苦しみなど何も知らなかったんだと恥じ入ります。自分とまったく違う世界に触れたときに瞬時に状況を理解し共感を抱けるのは、おそらく小さい頃からアンドレという貴族ではない人間がそばにいたのも大きくて、その経験が架け橋になっているのだと思います。物語の中盤以降、アンドレが存在感を発揮するのは、当初から想定してらしたのですか。
池田 いえ、アンドレが最終的にオスカルと結ばれるというのも、最初は考えていなかったんです。でも、あの当時の女性の理想的パートナーとして、どんどん人気が出てきました。『ベルばら』は少女向けに描いていたわけですが、大人の女性からのお手紙だと「私もアンドレがほしい」というのがとても多いですよ。
三浦 アンドレはどこかで恋を諦めるだろうと思っていたのですが、身を引くどころか、オスカルの隣に居続ける根性がすごい(笑)。優しさに惹かれたり、頼りない気がしたり、アンドレに対する私の気持ちもあれこれ変遷しましたが、大人になるほどに彼みたいな人が一番いいと思うようになりました。