男は車椅子に座り時折姿勢を変えながら、静かに耳を傾け続けた。
2021年2月、福岡、鹿児島両県で養子の大翔(ひろと)くん(当時9)を暴行の末に死亡させた傷害致死罪と、心中するために実子である蓮翔(れんと)くん(当時3)と姫奈(ひな)ちゃん(当時2)を絞殺した殺人罪で起訴された父親の田中涼二被告(43)の判決公判が2022年10月11日、福岡地裁であった。武林仁美裁判長は「大翔くんに1カ月以上長期間の暴行を加え、衰弱しても執拗に暴行を繰り返した。蓮翔くんにもナイフを4.9センチも刺した後に首を絞め非常に残酷だ。短い生涯を奪われた無念は計り知れない」として検察の求刑通り無期懲役を言い渡した。
改めて事件について振り返ると、田中被告は2020年12月に元妻A子さんと離婚。3児を引き取り1人で面倒を見ていたが、育児のストレスから大翔くんに対して、殴る蹴るなどの暴行を加えるようになった。そして翌年2月、自動車内での暴行後に大翔くんが死亡した。思い詰めた田中被告は実子2人と心中しようとして2人を絞殺し、自らは宿泊していたホテルに警察が訪れた際に4階から飛び降りて自殺を図ったが、死にきれなかった。その後、逮捕され、事件から1年半以上経た現在はクリスチャンになり「生きて子供たちに償いたい」と福岡拘置所で面会した記者に心境を明らかにしていた(インタビュー記事 #7、#8、#9、#10、#11、#12を読む)。
“何よりもかけがえのないものだった”3児の死はすべて田中被告による犯行と認定
9月20日に始まった裁判で、田中被告は、蓮翔くん、姫奈ちゃんを殺害したことについては「身勝手だった」と認め、大翔くんに対する暴行も認めた。しかし大翔くんの死については「私の暴行で死んだのかは分からない」と一部否認した。弁護側は「肺炎の症状もあった」と説明したが、武林裁判長は検察側の法医学者の知見に軍配を上げ、3児の死はすべて田中被告によるものだと認定された。
「自分にとって3人の子供は何よりもかけがえのないものだった」
面会する記者にこう発言した田中被告は本心だったのか、それとも偽りの思いだったのか。最悪の結末となってしまったA子さんと築いた家庭はどのようなものだったのか。法廷での関係者らの証言をもとに紐解いてみる。