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 渋谷へのアクセス権を手に入れた女子高生の鈴木は、本人曰く「普通の非行少女が反抗期に入って非行に走るのと同じような感じで」「周りの影響とかもあって」いわゆるブルセラで下着を売るなどして、着飾ってクラブ通いをする資金を得るようになっていった。

「否定できないならやっちゃうけど、いいの?」

「若い私には、使用済みの下着を購入金額の100倍近くの値段で売るブルセラを否定できる大人がいるようには思えませんでした。買っている客に欺瞞があっても、広義で性の搾取であっても、指一本触れずに性を商品化できるなら、そしてそこで稼いだお金で服や化粧品やCDや、好きに生きるために必要なものを手に入れられるなんて最強だと思っていたから。

 新聞紙面すら賑わせた援助交際問題やブルセラ論争を見ていても、私の納得する形で否定できている大人はいませんでした。『だめって言ったらだめ』みたいな、理由なき禁止は当時はとても理不尽に感じていたんです。

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 今でも、なぜ作家になったのかを聞かれると、売春をどうやったら否定できるのかが知りたいから、と今のような話をすることがあります。ただ年齢とともに感じ方が変わったこともあります。『だめって言ったらだめ』にせよ、『魂に悪い』や『あなたが傷つくから』にせよ、若い時には全く説明になっていないと思っていたその感覚を、侮れない、むしろものすごく大事なのではないかという気持ちが芽生えつつあります。

©丸谷嘉長

 その、なんとなくだめな気がするという感性に従うことが、結局は一番身を守る術なんじゃないかなって思うんです。でも当時は、それじゃあ私は納得できないと。否定できないならやっちゃうけどいいの、みたいな、そういう反抗の仕方でした」

 否定できないならやっちゃうけどいいの。鈴木は「なぜ男の人に体を売ってはいけないのか、その核の部分を2000年ほど誰も否定できていない」と語る。

 ルーズソックスに、ブルセラ、援交。90年代後半の一大コギャルブームを真正面から浴び、体現していたとも言える鈴木は「女の人は性的な体を持った時から、ふたつ以上の顔を持っています。セックスっていうのは、親に見せたことのない唯一の姿を初めて人に見せる行為だから。娘としての顔と、例えば彼氏に見せる顔とかって分裂していくじゃないですか、ミスチルも歌っているように」と、当時の自分自身を表した。

 白と黒の極の間に、無限に続くグレーのグラデーション。「善悪でも、倫理と非倫理でもいいんですけど、人間って完全なる白も黒もいなくて、グラデーションの中に点在しているわけですよね。私は青臭くて、その曖昧さや言語化され得ない肌感覚を理解できず、いいバランスが取れなかった。極端な白と黒を行ったり来たりする感じはあったのはそのせいかもしれないです」

 否定できないならやっちゃうけどいいの。

 賢く、好奇心の強い10代の鈴木の中で、グレーは次第に濃度を増していった。

ヘアメイク 佐藤寛