「1年に1ヵ月だけ」の稀少性が生む独自の付加価値
区間内で唯一の直線型橋梁である清水橋を渡ると、原生林の中の坂道をさらに下り続けて2分ほどで、頭上に青い案内標識が現れた。
この先で左折すれば東川市街、直進すれば「21世紀の森」と称する旭川の自然公園に至る、とのこと。チョボチナイゲートから12kmを過ぎて登場した、この区間内唯一の案内標識(反対車線を走った場合はチョボチナイゲートの手前に青の案内標識がある)のすぐ先に、区間終点の東川北7線ゲートがあった。
ゲートを通過する車やバイクの多くは、左折して東川市街方面へと走り去っていく。チョボチナイゲートからここまでの区間全体にわたって、沿道に人家は一切ないし、自動販売機やトイレなども存在しない。観光地化されていない北海道の原風景に触れられるのは、もともと、通行自体が観光目的化することを想定されていないのだから、当然ではある。
とはいえ、全行程を走り抜ける間に、生活上の必要があって通行していると思われる近隣住民の自動車や、道内各地の道路で頻繁にみられる大型トラックなどの物資運搬車両は、いずれも姿を見かけなかった。
区間内で見かけたのは、“幻の道路”目当てにやってきた観光客ばかり。皮肉なことに、「1年に1ヵ月しか通行できない」という不便極まりない稀少性が、農産品・林産品流通における利便性、主要観光地へのアクセスの向上、といった本来の目的をほとんど果たせていないこの道路に独特の付加価値を与えて、遠来の観光客を招き寄せているのである。
公共交通網の運営の観点から言えば、公道が年間で11ヵ月も通行止めになる事態は妥当とは言い難い。ただ、仮に地滑り対策工事が完了して通年、あるいは冬期以外の約半年は通行可能になったら、この道路の観光資源としての価値は大きく失われるだろう。
今年は10月13日午前11時、予定通りにゲートが閉じられた。冬期通行止め期間は来年5月9日午前11時まで。だが、おそらくは来年も冬期通行止め期間に続いて、地滑りの危険ゆえに通行止めが続くと思われる。“幻の道路”は今年もつかの間の活況を終え、来秋までの長い眠りについたところである。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。次のページでぜひご覧ください。