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30代女性が「敗血症」を発症、医者は「99.9%助からない」と…苦しむ娘を自宅で介護し続けた母親の“後悔”

30代女性が「敗血症」を発症、医者は「99.9%助からない」と…苦しむ娘を自宅で介護し続けた母親の“後悔”

『実録・家で死ぬ 在宅医療の理想と現実』より #2

2022/12/08
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具合が悪い時だけ病院の外来に行き、薬をもらって帰るのを繰り返す

「昨日までできたことができない」と娘はよく泣いていました。普通に歩いていたのが杖をつくようになり、車椅子になって、やがてベッドに横たわるように……。日によって精神状態も変わりました。

「私の介護のせいで時間がなくなってごめんね」「こき使ってごめんね」と謝ることもあれば、「どうして70歳になるあなたが健康で、40歳の私はこうなの!」と叫ぶこともありました。

 娘は具合が悪くなるたびに入院していましたが、亡くなる1年前は「病院はいやだ」と、自宅にいるようになりました。

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 訪問医は来ていません。訪問看護師さんやケアマネさんが時々うちに来ましたが、娘は他人に触られることに抵抗がありました。また私自身も70代で、自分が動けるものだから娘を他人任せにしたくない気持ちもありました。娘の具合が悪い時だけ、ずっとかかっていた病院の外来に私が行って、薬をもらって帰るという繰り返しでしたね。

 でもある時、私は自転車の事故で骨折してしまったんです。病院の先生から「手術をしなければダメ」と言われたのですが、「娘の介護があるから」と一旦はギプスで家に帰りました。ところが痛くて動けません。すると夫が「俺が1か月間、千鶴子を看るから」と言ってくれ、それで入院して手術を受けました。入院中に一度、娘がお見舞いに来てくれて、泣きながら「大福を食べよう」と言ってくれたことがありました。

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「あとどれくらいなの?」訪問看護師に尋ねると…

 でも、その4、5日後に娘から電話がかかってきて、「怖い、怖い、もう何も考えられない。頭がおかしくなっていく」と泣くんです。「ごめんね、ごめんね。早く帰るからね」と私は答えました。当時のことを夫は「父親として1か月でも看病できてよかった」と言うのですが、それまでなんでもお母さん、お母さんだったから、私の入院が娘の死期を早めてしまったんじゃないかと今でも思うんです。それは亡くなる1か月前くらいのことですね。

 私が退院すると、娘は簡単な質問にはイエス、ノーで答えるものの正常な会話ができない状態になっていました。痛みや苦しさを取るために大量にモルヒネを使ったせいではないかと思います。

 死が近くなって医療用麻薬を使うと、薬によって意識レベルが低下したと思われやすいが、実際は病気の進行に伴う体の変化である可能性が高い。「適正に使用すれば、医療用麻薬が命を短くすることはない」と、終末期患者を診る多くの医師が断言する。