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「ご主人呼んで! お父さん呼んで!」口から真っ黒な大量の血が

 2014年10月6日、あとから振り返ると亡くなる前日だったのですが、その時はまさか死が近いとは思っていませんでした。気づかなかった。ただ、娘が毎日のように食べていたプチトマトさえ口にしなくなっていったんです。私はちょうどやってきた訪問看護師さんに尋ねました。 「食欲もないし、寝ている時間も多いし、様子がおかしい。あとどれくらいなの?」

「いつ言おうかと思っていました。もう1か月以内だと思います」

「えっ……」

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 私はそれ以上言葉が出ませんでした。なんでもっと早く言ってくれなかったんだろうと、内心怒りに震えました。そんなに死が迫っているとは思わなかったんです。勤務中だと思いましたが、娘の旦那さんにもすぐ電話をしました。彼も驚いて、「うそでしょ」と。私は「これからは1人きりにさせないようにしよう。あなたが仕事が終わるまで、私が千鶴子の家にいるから」と話しました。

 翌日の10月7日。私がいつものように娘の家を訪ねると、娘は40度の熱がありました。

「お熱があるから病院に行こうか」と呼びかけると、娘は「いや……」とかすれた声で言う。

 一言、二言つぶやくと、ふーっと寝てしまう。その繰り返しでした。私は何だか胸騒ぎがして、その日は一歩も外に出られなかったんです。夕方、訪問看護師さんが来て、危ない状態だと感じたのか、帰り際に「お母さん、何かあっても救急車を呼んじゃダメよ」と。

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 私はいつものように、看護師さんに「ありがとうございました」と頭を下げ、その後ふと娘の顔を見たら、娘は口をゆがめて、途端に口から真っ黒な大量の血があふれました。看護師さんがタオルで血をおさえ、ぬぐいながら、「ご主人呼んで! お父さん呼んで!」と叫びました。私はすぐ千鶴子の旦那さん、父親、それから息子(千鶴子さんの弟)に連絡を入れました。

 信じがたいことだが、その時、訪問看護師はひととおりの片付けを終えると、「18時から会議があるので」と、そそくさと帰ってしまったという。

まだ脈があるのに葬儀屋の確認をする訪問看護師

 30分かからないうちに娘の父親が駆けつけました。「ちづこ」と呼びかけると、娘は目をぱっちり開けて何も言わずに父親を見つめました。父親としっかり目を合わせると、再びひゅーっと眠りに落ちてしまうんです。それから10分ほど経つと娘の夫も帰ってきて、枕元で「ちいっ」と話しかけました。娘はもう一度大きな目を開け、しばらく2人は無言で見つめ合い、また娘は目をつぶりました。

 その後に息子も訪れ、「お姉っ」と声をかけると、なんとか目を開けようとする反応を示しました。全員が到着すると脈が乱れ始め、私は訪問看護師さんに電話したんです。すると「呼吸が止まってから電話してください。今行ってもやることがありませんから」と。私はどうしたらいいかわかりません。「じゃあ救急車を呼びます」と言うと、今度は「すぐ行きます」と。でも駆けつけて玄関を開けるなり「葬儀屋さん、決まっていますか?」と言うんです。途切れながらも、娘の脈がまだある段階の時に……。

 それから1時間もしないうち、娘の脈は完全に途絶えました。