なぜ、綿密な企画書は必要ないのか?
海外の人気店を日本にもってくる場合でもオリジナルの店でも、新たな飲食店をつくるにあたり社内で決められたプロセスはない。野田さんがやりたいと思う店について何名かで話し合い、意思決定を下していく。会議やプレゼン、詳細な市場調査などを行うことはなく、早ければ発案からオープンまで6ヶ月程度。事業計画は最低限にとどめ、開店準備をしながら、さらには店を実際に運営しながら細かいところを詰めていく。
「アラがまったくない企画書をつくったところで、絶対にうまくいかないと思うんです。重要なのは、始めることと、やりながら変えていくこと。動き出してみると、ここおかしいよね? ってことがたくさん出てきますから。でも、綿密な企画書をつくって作業手順などを細かく設定してしまうと、決められたレール通りに進めることが正しいというプロセス思考になってしまう。修正すべきことを現場に伝えても“ここに書いてある通りにやってるじゃないですか!”と言われてしまったりもする。だからゴールを決めたら、そこから先は現場の人間に任せ、自分たちで考えさせたほうがおもしろいアイデアも出てきますし、結果としてうまくいくことが多いんです」
どう計算しても採算がとれない。無謀なことになぜ挑戦したのか?
最初に設定されるゴールは、創業者である現会長が思い描くビジョンであることも多い。その実現に向けて、野田さんやスタッフはオープン後もさまざまなことを改善していく。代表的な事例が、表参道にあるロブスターロールの専門店LUKE’Sである。ニューヨークの人気店を日本にもってきたこの店は、今や行列が絶えないほどの人気だが、野田さんがこの店について話を聞いた時は、絶対に成立しない、ありえない! と思ったという。
「想定していた販売価格だと原価率が通常の店の倍以上になることがわかりました。この数字を知れば、ほかの会社は始めようなんて思わないと思います。でも会長の中では、ロブスターロールをアメリカと同額、もしくはもっと安く売れば絶対に成功するというビジョンがあって、いくら説明しても聞き入れてくれませんでした」
会長のムチャ振りがなければ、超人気店は誕生しなかった?
最終的に定めたロブスターロールの販売価格は1580円(USサイズ)。実はアメリカでは同じものが17ドルで販売されているため、本国よりも安いことになる。野田さんの計算では採算のとれるラインは2500円以上。会長には“採算がとれません!”と声を大にして訴えかけたが、会長は“なんとかしてくれ!”“安く出せ!”の一点張りだった。しかも、すでに契約は結んでいる。あとには引けない状況の中、考えに考えた末に野田さんがひねり出した解決策は、USサイズよりも小さな日本独自のサイズを販売すること。価格はより手の届きやすい980円に設定。こちらをレギュラーサイズと位置付けて、できるだけ数を売って固定費率を押し下げ、利益を確保する戦略だった。
とにかく数をさばくために、注文が入ってから提供するまでの時間をできる限り短くすべくオペレーションを見直したり、店が認知されて行列ができるようになったら、お客さんに並んでもらう場所を新たにつくったり。店を運営しながらさまざまなことを改善していった。その結果、広さ5坪にもかかわらず、1日700食~800食も売りあげる店に成長。野田さんの予想をはるかに上回る大成功をおさめている。
「できない言い訳を探すのは簡単ですが、やれる方法を探す方がビジネスをやっていて面白いんですよね」