1ページ目から読む
3/3ページ目

 ジャニーズ事務所が文藝春秋を相手取り名誉毀損の民事訴訟を起こし、2004年2月の最高裁判決を各紙が報じたのが唯一記憶に残るところで、最も大事な点である「ジャニー氏による少年への性虐待の事実はあった」と認定されたことは、詳細に解説されることはなく、結果、何があったのかを世間で知る人はほとんどいない。捏造記事だと伝播され、問題意識の欠片もないまま現在に至っている。

「1999年以来、絶望しきっています」

 この件で想起するのは2002年にボストン・グローブ紙が報じたカトリック教会の児童への性的虐待事件である。長年組織的に隠蔽されてきた事実を暴いた調査報道はピュリッツァー賞を受賞し、この実話を基に制作された映画『スポットライト 世紀のスクープ』は世界に多くの感動と勇気を与え、アカデミー賞作品賞を授与された。

 翻ってその3年前の文春報道はどうだったのか。海外メディアが価値あるものとして再取材する一方で、国内では過去を検証することなく、ジャニー氏の功績を礼賛する向きもあり、まるで独裁国家のようである。誤解なきよう説明すると、評価を求めているのではなく、単純におかしいと思うのだ。それを言及すると業界内で“村八分”、“危険人物”扱いが待っていた。

ADVERTISEMENT

ジャニーズ事務所 ©時事通信社

 しかし、主要メディアによる護送船団に守られた企業が批判されないのは、不公平とは言えまいか。企業や主要メディアが熱心に伝えるSDGsも、この歪みを知るとお花畑のように思えてしまう。私はBBCスタッフに感想を伝えた。

「1999年以来、私は、日本のメディアにずっと絶望しきっています」

 悲観的ではあるが、これまでのことを現実的に捉えると、このBBC報道が日本で大きく取り上げられることはまずないだろう。「日本のメディアは明らかに異常です」、ニューヨーク・タイムズ記者が23年前に呟いた言葉が今もリフレインしている。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2023年の論点100』に掲載されています。