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介助犬の足が踏みつぶされそうに…自閉症の男性が抱いた“デモに参加する人たち”への疑問「自分を見失ってしまってるみたい」

『「普通」ってなんなのかな 自閉症の僕が案内するこの世界の歩き方』より#1

source : ノンフィクション出版

genre : ライフ, 社会, 国際, メディア, 読書, ライフスタイル

note

 オックスフォードのある授業で、省エネルギーについてディスカッションしました。僕は医療器具を使っているし、それらがどれだけエネルギーを消費するかに強い関心があるから、エネルギー税は一律にすべきだと発言しました。すると、ひとりの学生が明らかに僕の考えは取るに足らないみたいなことを言ったようです。次の週、みんな「ねえ、大丈夫?」みたいなことを言ってくれたけど、何のことかわからなかった。その学生の言ったことが問題であると僕は認識しなかったんです。

 サウスカロライナ大学にいた時、動物保護に関心があるらしい男性が近づいてきて、介助犬は動物への残虐行為の一形態と見なされるから、僕の介助犬は奴隷のように使われるべきではないと言いました。かなり強い口調で、僕の介助犬デイジーはここにいたくないはずだ、家に置いてきたほうがずっとうれしいだろうと言い出したのです。僕はその人と話をしようとしましたが、その人はなぜか急いでその場から離れていきました。人と話すことには興味がなかったようです。僕は「いや、それは間違っています。デイジーはここに僕といたいのです。もし家に置いてきてしまえば、すごく悲しみます」と言おうとしたんですけど。

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 周りにたくさん人がいたと思うけど、みんなその男性の言葉をおそろしく思ったんじゃないかな。僕は教室に向かって歩いていただけだけど、みんな僕がすごいショックを受けて、逃げ出そうとしていると思ったようです。でも、僕はショックも受けなかったし、逃げ出そうとも思わなかった。僕の頭に浮かんだのは、「ああ、なんて失礼な言い草だろう」ってことだけでした。

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 侮辱されたりひどいことを言われたりしても、僕はまったく反応しなかったと思う。何の効果もないから。僕がそれを重要だと思わなかったからじゃない。それが僕にとって重要じゃなかったんです。

 もしデイジーについて今そんなことを言われたら、たぶんこう答えるんじゃないかな。

「障がいのある人に対してそんな言い方は許されません。僕は構わないけど、僕以外の介助犬を連れている人に対してそんなことを言うべきじゃない。そんな言い方をされたら、その人たちはその週ずっと悲しい思いをしなくちゃいけないから」

 特に声の感じと言い方に注意したいですね。あとになってほかの人たちと話してみて、その大切さがわかりました。僕には影響ないかもしれませんけど、ほかの人たちは心がくじかれてしまうかもしれないから。

 僕は心がくじかれるようなことはまずありませんし、これからもないでしょう。なんだかすごく冷たい言い方に聞こえるかもしれないけど、こんなことがあって、僕には読み取れない感情的なものが、ほかの人にはとても重要なんだと気づきました。